空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。
さて、さて、夜も深まってきましたよ。
静かに訪問者が扉を開きました。
~ジンくん~
「満天さん!!!」
『やあ!久しぶり!』
「最近さ、ヘルパーの仕事を始めたんだ、、、続きそうもなくて、、、僕はさ、近々、自己破産するんだよ。上手くいかないな。
あっちの世界ではさ、僕にサポートの人が付いた訳さ、いろんな事が上手くいかなくて、乱れきってさ、一人で生きていくのが難しいって言われてさ、サポートの人が必要なんだって、こんな事あるのかな、僕は一人でも大丈夫なのに、親に知られたら、僕はさ、殺されちゃうよ、、、また、グチグチ始まるさ。」
『そう。』
「そっ、病院の紹介でさ。」
『ふん、ふん、』
「病院に行っている事だって親には知らせていないのに、僕の両親はさ、僕が小さい頃から、塾の経営をしていてさ、そりゃね、勉強、勉強、いい学校に行って、有名大学に行かせて、それはもう異常だったよ、成績が悪いと殴られたり、蹴られたり、それはひどくて、塾に通う子には、めちゃ、優しくしいくせに、自分たちの子どもにはとても厳しかったんだよ。
今はさ、塾も大手に生徒持っていかれて、経営難さ、父親はさっぱり仕事もしなくてさ、教員の母の収入が家計の支え、、、さ。
僕には兄がいるんだけど、兄は優秀で、今は地方の公務員、お偉いさんさ。父にも母にも逆らわず、ずっといい子でさ、兄が家にいるし、僕は思い切って家を出た。」
『そうか。』
「ああ、結局、高校も中退さ、自分ではどうすることも出来なかったんだ。僕には居る場所はなかった、親と僕とは何か違う生き物のような気がしてた。
バイト先で知り合った子と同棲して、そこで家を出た訳さ、それも上手くいかなくて、その子もさあ、、、親と一緒さ、帰りの時間やら、お金の使い方やら、理屈っぽいし、何でも干渉して、僕を支配しようとする。耳元で嫌味を聞かされ、思う通りにならないと、、、それは、もう、、、だからさ、逃げ出したわけさ。」
『はぁ~。』
「それでも、親はさ、僕にあれこれ言ってくるわけさ、これからどうするだとか、父親なんて、クズなくせしてさ、仕事もまともにしないくせに偉そうに言ってくるわけよ。母も生きていくために何かしろとか、勉強しろ、資格でも取れとかさ、僕は僕なりにやってきているのに、まるで僕はゴミか!って感じさ、
頑張ったてどうすることも出来ない事ってあるだろう、頭と心がバラバラな訳さ、でもさ、親から離れて、僕なりに高校も通信だけど卒業したし、資格も幾つか取ったし、講師の仕事にも就いたけど、続かなかった。親にはまだ話していない。言えないよな、、、言えば、またクズ扱い、僕はゴミさ。」
『君は立派だと思うけどな。』
「ここの世界は幸せだぁ~。いつも僕を満たしてくれる。安心させてくれる。満天さんはさ、いつでも僕を受け入れてくれるよね。僕はそれを望んでいるだけなんだ。」
『君は君さ。』
「親にもたまに会うけど、辛い。いつまで偽りの自分を演じられるのか、他人ならさ、偽りの自分でも付き合っている時間だけ演じていればいいんだよ。辛くなったり、もうだめだと思えば逃げることも出来る。時にはさ、付き合いについても考えた事もあった、でも関係が深くなれば、自分を出す事も、干渉しあう事もあるだろ、僕はまだそれが出来る準備が整ってないわけさ、だからさ、自分から身を引いてしまう、な、、、
親はさ、どうしてか、なかなか踏ん切りがつかない。
あっちの世界で僕についたサポートの人がどんな人かって、それはさ、話も聞いてくれるし、まあ、いい人さ、、、でも、これから、、、だろう。」
『これから、ね。』
「満天さん、また来てもいいかな、ここの世界に来ると気持ちがいい。」
『いつでも来ていいさ、ここは君の故郷だろ。』
「ああ、僕はね、もう少し出来るような気がするんだ。満天さんは上の世界から僕をいつも見てくれているよね。僕のいいところもダメなところも、黙って見ていてくれるだろ。満天さんの世界で満たされる事で僕は向こうで生きていける。
僕の耳のピアスの穴、大きくて向こうが丸見えだろ、僕は鏡を見るたび、いつも感じている。この穴を通して。鏡に映る耳の穴の向こうにいつも満天さんが勇気や愛をくれているって。
満天さんに会いに来ることが出来るようになって良かったな。これからはね、あっちの世界の人達の言葉も、、、、このピアスの穴を通して、満天さんに届くように聞こえるように、もっとよく聞くようにするよ。
だからさ、僕を見ていて、僕の話を聞いていて、僕にはそれが必要で、それが生きていく力になるから。」
『君はもう大丈夫だ。』
「ああ、分かってる。じゃあ、行ってきます。さようなら。」
~満天さんのつぶやき~
『耳のピアスの穴、なくてもね、聞いているし、見てるけどね、、、
そろそろ、それに気づきそうだな、、、』