~ 再生 ~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

さあ、今日の訪問者は誰でしょう?

~ 再生 ~

『やあ!』

「覚悟を決めました。」

『おお!』

「私は今、ある女性の胎内で羊水に守られ “人” として生まれる準備を整えているところです。人間の神秘な働きでこの女性の意思とは関係なく私は守られ成長します。

私は、私自身の役割を果たすために、この人間社会に生まれるのですが、この女性に宿った時から私の遠い記憶は徐々に色あせていきます。本来なら記憶が薄れていくと同時に誕生への決意が強まるのですが、私は徐々に役割を果たす自信が薄れてきてしまいました。」

『なぬ?』 

「私は誕生後、数か月で人間社会を去ることになります、これもまた私の人生です。が、この胎内で女性の気持ちの揺れが、この羊水を揺れ動かし私に伝わってくるのです。

“ ああ、私はこの人間社会に生まれるのか、この人生を受け入れていくのだ。数か月の役目だ、この残忍な運命を受け入れていくのだ、これが私の成すべき運命だから ” と自分自身に言い聞かせています。」

『ふん』

「最近、この女性は夫婦関係に悩んでいるようで、夫は仕事も長続きせず転職を繰り返し家計は苦しく、経済的な援助は女性の親に頼りっぱなしで、女性もほとほと呆れているようです。

 実は、この夫婦には既に2人の子どもがいまして、私からすると兄と姉になりますが、今はある施設で保護されているのです。まあ、夫だけではなく、女性も似たようなもので、好き勝手の生活をして浪費も激しく、夫と一緒にギャンブルに夢中になり、夜も深夜まで遊び歩き、子ども達を放置していた為に近所の通報で子ども達と引き離されたわけです。

 そろそろ、夫婦の会話も私の未熟なこの耳に入ってくるようになります。誕生までこの夫婦の会話を聞きつつ羊水から伝わる感情を感じつつ成長してゆきます。

 私は誕生後、しばらくはこの女性の実家で親戚縁者に見守られ愛情豊かに育ててもらえます。特に女性の両親は私を最後までかばい守ってくれる役割です。

 夫はしばらくの間は働くのですが、そのうち、またゲーム三昧、酒やギャンブルに戻ります。女性も体力が回復し元気になると私の事は両親に任せっきりで夫と遊び歩くようになります。夫婦は女性の実家を出ることになりますが、女性の両親は私を引き取ってくれました。生後、6~7か月は私も落ち着いて乳児として役割を果たします。

 そのうち、女性は何を思ったか夫と別れたいとまた実家に戻ってきます。夫とのトラブルが続く日々の中、ある日、私は女性の母親と縁側でゆったりと午後のまどろみを楽しんでいますと、夫が忍び込み私をさらったのです。当然、大騒ぎとなりました。

 女性は夫のその行動を “愛情” と勘違いします。真実が見えるほど女性の心は成熟していません、というのも女性の精神はまだ大人ではないのです。女性の両親は、二人の関係を許しますが、その条件に二人の生活が落ち着き、自立した生活が出来るまで私を女性の両親に引き渡すことでした。二人はその条件を受け入れました。

私が女性と夫に連れられて女性の実家に帰るその日、二人は私を置き去りにしてどこかに出かけてしまいました。私は心細く泣き叫びましたが誰も気づきません。そのうちぐったりして私はそのまま永久の眠りにつくのです。女性の両親が心配して私を迎えに来てくれましたが、私は私の笑顔を見せてあげる事は出来ませんでした。これだけが私の後悔でしょう。

 保護されている私の兄、姉に私の誕生の話や私が亡くなる話が届き、兄、姉の心は揺れ動きます。様々な感情や思考がグルグルと彼らを襲い複雑な思いで毎日を過ごすようになります。彼らはこの感情を乗り越えて立派な大人になる運命です。」

『ほう、』

「私の過去において、、、もう数百年も昔の話ですが、この家族に酷い仕打ちをしたことがありました。その頃、私がいた村では不漁不作が続き、村全体が苦しい時代でした。あまりにも不漁不作が続き、山賊や海賊に子ども達を売り、家族を生贄に出し、乳飲み子を放置しました。

 長い年月を費やし、私は精神の成長を果たし、その時の償いの為にまた人間社会に誕生することが出来ます。それと同時に、この家族は私という存在を介して、今回の人生の役割を果たします。

 羊水の中では世界は一つで繋がっています。そこには、人間の計り知れない無限なる愛と平和があります。清閑な世界です。そして、誕生と同時にへその緒を切られてすべてが分離します。ここからが私の生きるべき道となります。人生終わる時に、またすべてが統合していくのです。この一連の流れを幾度となく繰り返し人は光となっていきます。

ここで改めて意を決します。

しっかりと数か月の命を輝かせてきます。」

『おぉ!』

~満天さんのつぶやき~

『覚悟を決めて運命というものを受け入れるだけ、

全てを受け入れるだけ、ありのままに、

ただ、それだけ。』


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