~旧友~

満天さんの談話室

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

~旧友~

「満天さん、聞いて欲しい事がある。」

『やあ、いらっしゃい。

 さあ、掛けて。

「ありがとう、今日、30年ぶりに友人と会う。」

『ほほう! 30年ね‼』

「あいつと俺は、不思議と同じ経験をしてきた。同じ時期に、タイミングを合わせたような経験をしてきたんだ。親や兄弟との決別、結婚、離婚、会社でのトラブルと。

あの当時は若かった若すぎた、何も分からず、ただただ互いに慰め、愚痴や悪口や不満などお互いに吐き出しながら過ごしてきた。お互いが必要としていたんだ。あいつも俺もお互いがいなければ乗り切れなかったかもしれない。」

『そうか。』

「金も無く、身内からは見離され、本当に辛かったな、人に言えない仕事もしたさ、あいつも俺も生きていく糧がそれしかなかった。それしか出来なかった。その選択が最善か最悪か、そんなことを考える余裕も知恵も何もなかった。それでも互いに支えあって生きてきた。

 そんな二人がそれぞれ家庭を持ったり、新しい仕事に就いたり、新しい人間関係が始まったり、段々と自然と、、、二人の間は離れていった。

 それでも二人はお互いを気にしていたさ、少なくともそう思っている。

ああ、あの数年、二人にとっては、、、

それが、今年、連絡がきたんだ。そこから一気に話が進み、会うことになった。」

『ふん、ふん。』

「家の留守電にあいつからのメッセージ、俺は十数年も無視してきた。そのうちメッセージも聞かなくなった。俺はあいつと違って惨めだった。俺は立ち直っていなかったんだ。

 あいつは再婚して、新しい家族との再出発を切った、あいつなりに家庭を築いた。あいつの親は、その再婚を機にあいつを認めた。祝福されたんだ。あいつは成功した。仕事もそれなりにやっている。

 俺も同じようにしたかった。新しい家庭を持ち、幸せになりたかった。でもあいつの幸せと俺の幸せは違っていたのさ。

 昔は同じように感じていたことが、それぞれの方向が違って、自分はみじめな気持ちになっていた、あいつのようになりたい、、、あいつのように生きたいと思っていた。

 記憶の中では、あいつの結婚式が最後に会った日だろう。

俺は、家族とも、兄弟とも疎遠になった。がむしゃらに勉強して、仕事して、それなりに出世して、職場では難なくやっている、、、

でも、俺には友達と呼べるやつもいない、信頼できる人間もいないし、いつでも孤独で、自分が頑張らなければと、自分なら出来ると、自分を奮い立たせて生きてきた。

 だから、あいつの事も無視して、、、何十年もな。

 あいつのように心を通いあえる人づきあいなんか俺にはない、出来なかった、そのすべも分からない。

だからさ、あいつが結婚して幸せそうな言葉を聞くと、年賀状の写真を見ると、どうして俺にはこんな幸せが来ないのかって惨めだった。それでもあいつには幸せでいてもらいたかった。あいつの幸せが俺の支えでもあった。」

『ふん、ふん。』

「満天さん、前にここに来た時に満天さんが俺に言ってくれた言葉、覚えているよ。人は、この地球に生まれ戻ることが決まった時、今世の新しい目的や宇宙との約束事や、たくさんの課題を持って、自分なりに自分が決めたストーリー、人生を決めて来ているんだよな。」

『ああ、そうさ。』

「俺は、この地球に生まれ戻る前の事を忘れてしまった、いや、覚えていたんだが、思い出せない。でも今、これだけは言える。俺は、この時代を選んで、あいつとの関係をやり直そうと、そしてこれからはきっと今まで以上にいい関係になることをストーリーに書いてきたんだ。

きっと、今夜、満天さに会った事も、向こうに帰ると忘れてしまう。忘れてしまう前に、今夜、この話を満天さんに伝えたくて来た。」

『ああ。』

「俺は、あいつに会う前に、あいつに似合う俺になっていたいと思う。あいつは、いつでも俺を忘れずに気にかけてくれていた。その気持ちに “ありがとう” と素直に言える俺になる。

 この途絶えた期間を埋め尽くし、溢れ出るほどにこの気持ちを伝えよう、俺が今まで頑張れたのはお前のお陰だと伝えよう。」

『ふん、ふん。』

「満天さん、また、な。この先のストーリーも聞きたいだろう、また来るよ、ありがとう。」

~満天さんのつぶやき~

『この先のストーリー、、、知ってるよ、、、

君の人生はこれからが本番、君が自分でこの先の生き方を決めて来てるのを、、、

そして、もうここに来なくても充分にやっていけるのも、、、、」


ジンくん

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

さて、さて、夜も深まってきましたよ。

静かに訪問者が扉を開きました。

~ジンくん~

「満天さん!!!」

『やあ!久しぶり!』

「最近さ、ヘルパーの仕事を始めたんだ、、、続きそうもなくて、、、僕はさ、近々、自己破産するんだよ。上手くいかないな。

 あっちの世界ではさ、僕にサポートの人が付いた訳さ、いろんな事が上手くいかなくて、乱れきってさ、一人で生きていくのが難しいって言われてさ、サポートの人が必要なんだって、こんな事あるのかな、僕は一人でも大丈夫なのに、親に知られたら、僕はさ、殺されちゃうよ、、、また、グチグチ始まるさ。」

『そう。』

「そっ、病院の紹介でさ。」

『ふん、ふん、』

「病院に行っている事だって親には知らせていないのに、僕の両親はさ、僕が小さい頃から、塾の経営をしていてさ、そりゃね、勉強、勉強、いい学校に行って、有名大学に行かせて、それはもう異常だったよ、成績が悪いと殴られたり、蹴られたり、それはひどくて、塾に通う子には、めちゃ、優しくしいくせに、自分たちの子どもにはとても厳しかったんだよ。

 今はさ、塾も大手に生徒持っていかれて、経営難さ、父親はさっぱり仕事もしなくてさ、教員の母の収入が家計の支え、、、さ。

 僕には兄がいるんだけど、兄は優秀で、今は地方の公務員、お偉いさんさ。父にも母にも逆らわず、ずっといい子でさ、兄が家にいるし、僕は思い切って家を出た。」

『そうか。』

「ああ、結局、高校も中退さ、自分ではどうすることも出来なかったんだ。僕には居る場所はなかった、親と僕とは何か違う生き物のような気がしてた。

 バイト先で知り合った子と同棲して、そこで家を出た訳さ、それも上手くいかなくて、その子もさあ、、、親と一緒さ、帰りの時間やら、お金の使い方やら、理屈っぽいし、何でも干渉して、僕を支配しようとする。耳元で嫌味を聞かされ、思う通りにならないと、、、それは、もう、、、だからさ、逃げ出したわけさ。」

『はぁ~。』

「それでも、親はさ、僕にあれこれ言ってくるわけさ、これからどうするだとか、父親なんて、クズなくせしてさ、仕事もまともにしないくせに偉そうに言ってくるわけよ。母も生きていくために何かしろとか、勉強しろ、資格でも取れとかさ、僕は僕なりにやってきているのに、まるで僕はゴミか!って感じさ、

 頑張ったてどうすることも出来ない事ってあるだろう、頭と心がバラバラな訳さ、でもさ、親から離れて、僕なりに高校も通信だけど卒業したし、資格も幾つか取ったし、講師の仕事にも就いたけど、続かなかった。親にはまだ話していない。言えないよな、、、言えば、またクズ扱い、僕はゴミさ。」

『君は立派だと思うけどな。』

「ここの世界は幸せだぁ~。いつも僕を満たしてくれる。安心させてくれる。満天さんはさ、いつでも僕を受け入れてくれるよね。僕はそれを望んでいるだけなんだ。」

『君は君さ。』

「親にもたまに会うけど、辛い。いつまで偽りの自分を演じられるのか、他人ならさ、偽りの自分でも付き合っている時間だけ演じていればいいんだよ。辛くなったり、もうだめだと思えば逃げることも出来る。時にはさ、付き合いについても考えた事もあった、でも関係が深くなれば、自分を出す事も、干渉しあう事もあるだろ、僕はまだそれが出来る準備が整ってないわけさ、だからさ、自分から身を引いてしまう、な、、、

 親はさ、どうしてか、なかなか踏ん切りがつかない。

あっちの世界で僕についたサポートの人がどんな人かって、それはさ、話も聞いてくれるし、まあ、いい人さ、、、でも、これから、、、だろう。」

『これから、ね。』

「満天さん、また来てもいいかな、ここの世界に来ると気持ちがいい。」

『いつでも来ていいさ、ここは君の故郷だろ。』

「ああ、僕はね、もう少し出来るような気がするんだ。満天さんは上の世界から僕をいつも見てくれているよね。僕のいいところもダメなところも、黙って見ていてくれるだろ。満天さんの世界で満たされる事で僕は向こうで生きていける。

 僕の耳のピアスの穴、大きくて向こうが丸見えだろ、僕は鏡を見るたび、いつも感じている。この穴を通して。鏡に映る耳の穴の向こうにいつも満天さんが勇気や愛をくれているって。

 満天さんに会いに来ることが出来るようになって良かったな。これからはね、あっちの世界の人達の言葉も、、、、このピアスの穴を通して、満天さんに届くように聞こえるように、もっとよく聞くようにするよ。

 だからさ、僕を見ていて、僕の話を聞いていて、僕にはそれが必要で、それが生きていく力になるから。」

『君はもう大丈夫だ。』

「ああ、分かってる。じゃあ、行ってきます。さようなら。」

~満天さんのつぶやき~

『耳のピアスの穴、なくてもね、聞いているし、見てるけどね、、、

 そろそろ、それに気づきそうだな、、、』