~ 16歳 失恋 ~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

今夜、満天さんに会いたくて会いたくて

その気持ちを打ち明けに来てくれた方は。

~ 16歳 失恋 ~

「満天さん、」

『はい』

「私は高校生!誰よりも素敵な高校生!」

『はい』

「私の彼は同級生、中学からずっと一緒だよ。高校も一緒に受験して一緒に合格!

 中2の時に告られて、ずっと付き合っているの。別れ話も何度か出たけど、その都度ちゃんと話してきた。いつも彼の浮気が原因。彼は優しいの、誰にでも。

私はそんな彼が大好き。でも、今回は違う!彼は本気みたい。」

『ふん』

「彼は、中学からテニス一途。高校に入ってからもテニス部で頑張っていた。

 昨日、一緒に下校して何だか気まずい雰囲気で。彼は部活をサボりがちだったから顧問から注意されて、帰り道、ずっと、顧問の悪口や愚痴話。そろそろ分かれ道に着いた時、いつもなら、手をつないで、引っ張り合いっこして、じゃれ合って、帰る時間を遅らせていた。

今日は違う。

「もうおしまいにしよう。付き合うの疲れた。」「どうして?」「そういうの嫌なんだ、いつも、そういうの、重いんだよ。」「、、、、」「普通の友達、その方が気が楽だろ?」「嫌」「だから、さ、重いんだよ、それが、じゃあ。」

 私は彼の背中をずっと見ていた、姿が見えなくなっても。

『ふぅ~』

「最近、彼はテニス部の女子とよく話をしていた。その女子は別の中学から来た子だった。今までの彼なら、私にどんな話をしたとか、どんな子でとかいろいろと話してくれた。  だから、浮気もすぐばれる。その度、彼を私に繋ぎとめなくちゃ!と私も頑張る。いつも最後は彼が「ごめんよ、ただの遊びさ。オレにはお前だけ、愛してるのはお前だけ」と。

 いつもなら、彼は休み時間になると、男友達とふざけたり、私に会いに教室に来てくれた。ここ数日、彼は廊下や階段の踊り場でその女子と過ごす。私が話しかけると「後でな」と、男友達とふざける時も、その女子がいる。私はその風景を遠目で見ていた。そのうちあの女子への関心も薄まると激しい胸騒ぎを抑えながらね。」

『ふん』

「私は怒りと悲しみと言いようのない不安に襲われながら、ようやく家に戻った。「ただいま」そのままベッドに倒れ寝てしまって、親から「夕飯を早く食べて」と起こされて、食卓に着いた。そして普段通りにシャワーも浴びて考えた。「明日、ちゃんと話そう。このままではいけない、いつもの事、また彼から、“ごめんよ、愛しているのはお前だけ、俺にはお前が必要なんだ”と言ってくるに違いない。

あの女子より彼への怒りが強くなった。

 彼からのライン。不安な気持ちで開けてみた。ラインには高校生時代を後悔したくない、だから一人になりたい、今はそっとしておいて、とだけあった。」

『ほう』

「一体、何、一人になりたいってどういうこと?私といると後悔するって事?悪いのはあなたじゃないの、いつも裏切り、だったら最初から付き合わなければ良かったじゃないの、告ってきたの、そっちだよ。こんなの辛いよ、重いよ、そばにいてよ、名前を呼んでよ、私はあなたの隣にしかいることが出来ないのよ、そうしたのは誰よ、あなたでしょ、私の時間を戻してよ、私の全てを返してよ、どうしてこんな残酷な事が出来るのよ、私の体は粉々に砕け散ってしまうじゃないの、私の心は海の泡となり消えてしまうじゃないの、もう私は山の霧となり隠れて見えなくなればいいのね、このまま消えてしまえばいいってことよね、あなたの中に私の温もりはもうないのね、私の影はみじんもないのね、この地球が無くなって、宇宙が失くなっても私の思いはあなたに溢れているのに、全てを返してよ、あなたなんか初めからいなかった存在にしてよ、私はこれからどうやって生きていくのよ、私に消えろというのね、それなら、私から初めからなかったことにしてやる。私が自分で終わりにするの、私の人生からあなたを消してしまう、あなたなんか!消えてなくなれ!!!」

『おぉぉ』

「涙は出てこない、怒りだけが込み上げてきた。恐ろしい考えが次から次へと浮かんだ。

 ふと、疲れて机の上の鏡に目が留まった。そこに映っていたのは私ではない。そこには巨大な蜘蛛が恐ろしい姿で映っていた。ぞっとして、後ろを振り返った。

“はっ”と我に返った、その鏡は彼がプレゼントしてくれたもの、ピンクのハートが散りばめられている、ディズニーでデートした時に買ってくれた。私が世界一、かわいい、世界一の抜群のスタイルと言ってくれた。今は、世界で一番醜い私。

 怖い、、、何かにとりつかれている、私?」

『、、、』

「とにかく蜘蛛を追い出さなくては、、、」

『うん』

「彼とあの女子を追い出さなくては!」

『ああ』

「鏡を捨てた。全て一緒に。」

『だね。』

~満天さんのつぶやき~

『失恋、悲しいね。

それでも、経験してね。

恋愛も失恋もすべて必要な経験、

素敵なレディになるための、ね」


~叶わぬ帰郷~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

そこにいるのは誰かな、扉を開けて入っておいで。

~ 叶わぬ帰郷 ~

「お邪魔してもいいですか。」

『ああ、よく来たね。』

 

「ええ、もういい時期かなと思い、私も先に進まないと。」

『ああ』

 

「この数年、ひっそりと身を隠すように生きてきました。

 田舎を出てから20年以上。両親も他界し、兄弟姉妹もいません。実家はボロボロで老朽危険家屋に指定されて、市から補助金が出るから撤去する事を勧められました。

 弁護士に相談しました。

 私は大学進学で実家を出ました。母は私が大学を卒業したと同時に他界しました。あっという間の出来事でした。父も母を追うようにその3年後には亡くなりました。

葬儀後、数か月の間、私は休みの日を利用して実家の片づけをしていました。

半年も過ぎようとしていた頃でしょうか、父の書斎の片づけに取り掛かりました。扉のついた書棚に少し大きめのクッキー缶がありました。何気もなく缶の蓋を開けると、そこには借金の明細が入っていました。ずい分前に完済した借金の記録もありました。そして、よくよく見るとまだ返済中の借金もあったのです。結構な金額、引き落とし通帳、印鑑がきちんとセットされ、入っていました。

母が亡くなった時に、父が「自分に何かあったら困るから」と、私に通帳や保険などの書類を決まった場所に保管してくれていたので、お陰で父が亡くなった時は、さほど困ることもなくスムーズにいろいろな手続きが出来て、私は有難いと思っていました。ですので、このクッキー缶には驚きました。とにかく何とかしなければと思い、すぐに通帳の確認をしました。幾らかまとまったお金が入っていたようで、先月までの金額は引き落としされていました。とにかく、この連休明けにローン会社に問い合わせをしなければと思いました。」

『ふん』

 

「休憩時間に、ローン会社に問い合わせすると女性の若い声で、このまま支払いする義務があると言われ、残金の支払い方など、どうするかと問いただされ、私は即答せず、少し考えたいと伝え電話を切りました。

 大学の奨学金は父の残してくれた保険金などで完済出来たので、私にはもう借金はありません。どうしたらいいのか悩んでいるうちに、今月の引き落とし日が近づき、私はその通帳に入金をしました。このまま父親の名義のままでいいのかしらと疑問を持ちつつ。

数年この生活が続きました。私は自分が住むマンションの家賃を抑えるために郊外に越しました。通勤時間は少し厳しくなりましたが、父の借金も残金2百万を切り見通しが立ちました。私の気持ちも「あと、ちょっと」と思っていた矢先、私は倒れてしまったんです。

数日、入院しました。医師より、過労、少しは休みも取るように言われました。残業や休日出勤で頑張ってきたのに、周囲からも「働きすぎ」と言われても笑顔で跳ねのけてきたのに、これからの支払いが不安になりました。その週は休み、翌週から仕事に行きました。上司からは「残業、休日出勤ダメだよ、就業時間数超えている分、ここで調整してね。」と言われてしまいました。

父のその通帳に徐々に入金できなくなり、直ぐに催促状が届きました。そして数か月後、ローン会社の弁護士から連絡が来ました。

私の頭の中で「もう限界、疲れたわ、このままいくと本当に倒れてしまうかも」とグルグルと嫌な事ばかり考えてしまいます。私が死んでしまったらどうなるのだろうか、ローン会社に実家を取られるなんてまっぴらごめんだわ、正常な思考はありませんでした。

 残金は残り少しなのに。」

『うむ』

「私は実家に帰ることを口実に会社を退職する事にしました。少しですが退職金も出ました。部屋を片付け、売れるものは売り、残りはすべて処分しました。私宛の郵便物などありません。僅かばかりの実家の固定資産税が年に一度、届くぐらいです。保険を解約し、カードなども全て解約しました。全て整理しました。引っ越し当日、私の荷物はリュックサック1つだけになりました。」

『んん』

「そこから私は誰でもない人になったんです。誰も私を探しませんし、私が誰か詮索もしません。探すとしたら父がお金を借りたローン会社の人だけですから。

 そして十数年、この生活にも限界が来ました。私はまた倒れてしまい救急車で運ばれまし

た。退院後、住所不定、日雇い派遣の私が辿り着いた先は、生活保護の人たちが住む共同住

宅でした。

 私はまたローン会社から追われる羽目になりましたが、もう逃げる事はやめました。担当職員の方が無料弁護相談を紹介してくれました。父の借金、実家の処分など相談したところ、光が見え始めました。この生活から抜け出る事が出来そうです。」

 

 

~満天さんのつぶやき~

「 誰かに相談するって

勇気がいるよね。

相談する相手が本当に正しいかって

不安になるよね。

秩序と調和で保たれて、

愛と平和が見える場所。

相談してごらん。」


万年青の気持ち

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

お~や、おや、おや、おや?

~ 万年青の気持ち ~

「部屋の浄化が出来たんです。」

『これは珍しいお客様、おもとさん、あなたがいらっしゃるとは、、、』

「最近は地球の方々が満天さんをよく訪れているだとか、サボテンさんに聞きまして。」

『そうですか。』

「運命とは、いやはや、すでに決まっているとはいえ。私は数か月前に303号室の住人に買われてその部屋の浄化をするようになったのですが、そこには、サボテンさんが先にいまして、その部屋の住人のために部屋の浄化を始めたんです。まあ、これ、私たちの仕事ですから。」

『な~るほど。』

「その土地もアパートも、汚れていたもので、外の南天さんや植物さんたちと一斉清掃することにしました。かなりしんどい作業でした。

 アパートの住人達もかなりの強者で苦戦しましたよ。」

『ご苦労!』

「ありがとうございます。

 303号室の住人は、仕事をするのでもなく、一日だらだらと携帯電話で誰やらと話をしたり、気儘なように見えましたが。

 その部屋に住むようになり、住人はかなり短気な性格と知りましたが、植物には被害を与えるような人ではない事を知り安心して浄化を始めました。

 土地は、外の南天さんが先頭に立ち、みんなを奮い立たせてくれて、皆、一斉に葉を輝かせ、美しい花を咲かせ、実をつけました。何度も枯れそうになりましたが、葉を食いしばり頑張りました。誰から見ても美しい木々、花々、段々と土地の空気が変わり、清々しい場所になっていきましたよ。あるとき、そのアパートの大家さんがやってきて、榊さんを仲間に入れてくれてね、榊さんの戦いぶりはそれは勇敢で、ザックザクとその土地の空気を払っては天に昇らせていましたね。

 そんな協力もあり、サボテンさんが空気をバシバシと房ぶり、私はサワサワ、ユラユラと空気を浄化していくのですが、そもそも住人自身の不浄が多く、その上、外で付き合う仲間が不浄の波動の人ばかり。とにかく休むことなく戦い続けました。」

『大変でしたな、、、』

「ええ、それでも成果も出ていました。

住人は近くの工場で働きだそうとしたんです。

それに、階下の足の不自由なおばあちゃんがお孫さん夫婦に引き取られ、家族と一緒に生活できるように!浄化されました。

サボテンさんも外の皆さんも、みんな、嬉しかったですねぇ~。

住人は、初日に工場とトラブルを起こして半日で帰って来ましたよ。玄関を足で“バン”と蹴り、痛そうでしたね。その怒りを浄化させるのに、サボテンさんは住人のお腹を下させてトイレにしばらく籠らせていましたよ。

しばらくして、住人は友人と出かける事が多くなり、部屋も留守がち、それでも私達には霧吹きで水を与えてくれて親切でしたね。

住人はいつも「どうして俺はこんなに運がないんだ、俺にも悪いところはあるさ、でも俺には理解できない、相手だって悪いじゃないか。それなのに、結局、俺一人が悪者だぜ。この俺に向かって、あんな態度はないよな。わかるだろ、サボテンよ、おもとよ、どうか俺から悪いものを全て取ってくれよ」

サボテンさんも私も持てる力を全て奮い立たせ、部屋の浄化に力を注ぎました。住人と、住人が連れて帰ってくる不浄な者たちも、その都度、浄化させて、住人が背負っている不浄はかなり根が深く時間を要するとサボテンさんも私も覚悟は決めていましたよ。」

『いや、はや、』

「数か月すると、住人は急に羽振りが良くなり私たちに肥料を与えてくれまして、外の南天さんや、植物たちにも肥料をまいてくれました。私たちはそのお陰で力強く働くことが出来ました。

 梅雨にも入りそうな頃に、階下のもう一人の住人さんが新しいアパートにお引越しになりました。どうもいい転職先が決まったようです。」

『ほう!』

「土地もアパートもすっきりして、303号室もまずまず浄化でき、住人に喜んでもらいたいのに帰って来ないんです。

 こんなにも、空気がきれいになり、住み心地良い部屋になり、サボテンさんも私も活き活きと見事にこの葉をその針を輝かせているのに、住人に見てもらいたいのに帰って来ないんです。

 外の榊さんから聞いたのですが、住人はしばらく別の場所で生活するようになるらしいです。この部屋には戻りたくても戻れないようです。大家さんは空気がきれいになって、清浄な土地とアパートになってとっても喜んでいるようです。サボテンさんと万年青さんは大家さんの家で住む事になりそうですって、大家さんが不動産屋と話していたらしいです。

 住人が、どこで、どうしているのか分かりませんが、サボテンさんと私は自分たちの仕事をやり遂げた充実感で満たされています。」

~満天さんのつぶやき~

『何かをやり遂げるって素敵

誰かに喜んでもらえる生き方って素敵

土地もアパートも部屋も、浄化され、きれいになり

とっても喜んでいるよ

お疲れ様!』


コール詐欺

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

さてと、今日のお客様はどなた?

~ コ~ル詐欺 ~

「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」

『むむ』

「あら、ごめんなさい。私ったら挨拶もせずに。こんにちは。初めまして、よろしくお願いいたします。」

『ふむ、(本当は初めてじゃないけどさ)』

「聞いてくださる?我が息子の話を。」

ふむ

「息子は平凡な中学生、我が家も平凡。

ところが大事件!コール詐欺、息子が、どうしましょう!

 久しぶりに地域でお祭りを開催、町会総出で盛り上がったわ。私も主人も参加して。

 その日、主人は町会のパトロールメンバーで町を巡回していたし、私は夕方にでも会場に行こうかしらと家事を済ませていたのよ。

 息子は午前中部活で、午後から友達とお祭りに出かけたの。お祭りのお小遣いは、奮発して2千円。お昼は友達と一緒に屋台の焼きそば?お好み焼き?たこ焼き?なんて楽しそうにね、ふふふ。」

『ふん』

「私は家事も一段落、夕食の下準備まで済ませて、少し休憩して炊飯器をセットして出かけようと思っていたところに、息子から電話!

“ お母さん、大変、お小遣いが足りなくなっちゃう。焼きそば、たこ焼き、ラムネ買って、みんなはポップコーンとか買うんだって、僕、お金が少し足りない。みんな、屋台の射的もするって言っているよ。どうしよう。”

“ まあ、みんな、お小遣いいくら持っているのかしら? “

“ わかんないよ!直ぐに持ってきて!3千円!“

えっ、そんなに?とにかくすぐに行かなくちゃ!

すぐに自転車に乗って、向かう途中で炊飯器セット忘れた事に気づいた。あ~、もう、悲しくなって、とにかく会場の入り口でお金を渡して、すぐに家に引き返した。そして、炊飯器セットした途端、また電話が鳴ったの。

“ お母さん、どうしたらいいの、お金が足りないよ。射的でどうしても欲しいものがあるのに、取れないよ。あと5千円だけお願い!”

“ えっ!5千円!どういうことなの?もう射的はやめたらどう?お小遣い自分でちゃんと考えて使わないとダメじゃない。”

“ 今日だけ特別!みんなと遊べないじゃないか!”

『ほお~、、、』

「えっ、遊べない?どういうこと?

普段は、お小遣いも持たせていないし、特に何か欲しがる子でもないし、今日は特別と思って、また会場に向かったの。今度は自転車置き場に自転車を止めて、入り口に向かおうとした時に、自転車置き場の担当のおじさんに声を掛けられた。

“ さっきも来てたね、何度もご苦労さん ”

“ 息子にお小遣いを届けにね、足りなくなって電話があって ”

“ 息子さん、いくつ?”

“ 中学1年生、やっぱりお小遣い必要よね、はぁ~、私の一日のパート代より高くなっちゃった ”

“ お母さん!それ、渡しすぎ!中学生、2千円で充分!今、はやりの振り込み詐欺!騙されやすいタイプでしょ!気を付けて!”

あ”あ”あ”――――

やられたわ、息子からのコール詐欺!」

『うむ。』

「後で、息子の友達の親に聞いたら、その親は自分の息子がいくら持って行ったか知らなかったらしく、びっくりしていた。問い正したら、こっそりお年玉をカードで引き出していたんですって。私は更にびっくり、カードを、子どもが!

 お祭りも終わり、今日の出来事をお父さんに報告!

 息子はお父さんから叱られて、家族でお金の話をしたの。お小遣いが必要な時は?その渡し方は?金額は?結局、話し合いの結果、毎日、100円。小学生みたいだけど。私達も渡したお小遣いについてはうるさい事を言わない約束もしてね、本当は言いたいけどね、辛抱辛抱。そしてお父さんから貯金箱のプレゼント。自由に開けられるところが良いところ。透明の貯金箱、中が良く見える。使わない時は、この中に入れておくといいよって、息子は喜んで、“ 僕、おつりもここに入れるよ ”って、ふふふ。

 お年玉も話し合った。お年玉は息子から貯金したいからと言ってきたから、今まで通りね。

 お父さんが、息子にちょっときつい一言。

君はいずれ大人になって自立するんだよ。そこからが人生の本番スタート。その時、もう一度、君が貯金したお金について自分で考える時がくる。だから通帳のお金はその時まで大事にしようね。

それとね、お母さんは素直で騙されやすいから、君が緊急事態でも電話はダメだよ。緊急事態は近くの交番に行けばいい。きちんと顔を合わせて話をしようね、お金の使い道。

お父さん、私にもきつい一言。

お母さん、これからは例え息子でも電話の要求は聞いてはダメ。息子や僕は電話しませんからね。すぐに警察に通報しなさい。息子も私も納得、納得。

はい、分かりました。

これで我が家のコール詐欺は解決。安心、安心。」

『ほっほう』

~満天さんのつぶやき~

『大昔はね、貝や石、物品などがお金の代わりに活躍していたんだよ。

ああ、そういえば、このお母さん、あの頃、同じことを親から教えてもらっていたねぇ。

ほっ、ほう!」』



~ダンス!ダンス!ダンス!~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

お~や、

まんまる笑顔がやってきた。

~ ダンス!ダンス!ダンス! ~

「報告!」

『ん?』

「文化祭! 絶対、来て!」

『ん~、こっちは夜中だけどね。』

「ダメ!私が踊るのよ、めっちゃ!頑張った!センター!絶対!踊るって!

前前前世と恋!満天さん!知ってるの?」

『ふん』

「中学の時は、高校なんて考えられなかったし、いじめの不安もね。

 満天さんは、上からずっと見ていたでしょ。」

『ああ』

「小学校の時、両親は離婚し私は転校した。お友達も出来たし、先生も優しかった。

 でも、中学に入って様子は変わった。親はフルタイムで働くようになったし、一番仲良しの子は中学受験で私立合格。

 中1の2学期、忘れない、だって授業参観日だったもの。

そして、そこから始まった悲劇。

 あの日、友達と普段通りにおしゃべりして、3時限目が終わり休み時間になると、あまり話さない後ろの席の女子が「一緒にお手洗い行こうよ」と声を掛けてきて、私は普通に「いいよ」と答えた。女子トイレには、その学年で悪ぶっている女子が一人いた。いきなり私に「生意気な態度を取ってんじゃないよ」と言った。えっ!頭は真っ白、頬を殴られた。“えっ?何?” 気づいたら二人はいなかった。私は我に戻り急いで教室に戻った。

チャイムがなった。私が自分の席に着くと同時に「起立」と声が聞こえた。私は泣けてきた、「礼」の時にボロボロと涙がこぼれ落ちた。先生は私に気づいていた。でもそのまま皆が着席し授業が始まった。後ろには保護者がずらりと並んでいた。ママはいない。

 先生は何も言ってくれない。私は呆然として、授業も、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。

 私はクラスの友達が怖くなった。近くのアパートの子と一緒に行動した。その子が学校を休むと遠い道のりを一人で歩いた。

 3学期に入り、後ろの席のあの女子からまた声を掛けられて咄嗟に逃げ出し、アパートの子と一緒に帰った。帰りにその子のおばさんが経営しているおにぎり屋さんに寄った。今までに食べたこともないような、ふわふわのご飯に大きな鮭が入っているおにぎりをもらって食べた。感動しちゃって、泣いちゃった。その帰り道、“私もいじめられている。あの子、表面はいい子に見せているけど気をつけて、あの子の本性、皆、知らないんだよ、先生も親も” と教えてくれた。」

『あぁ』

「そのうち、アパートの子は学校を休みがちになった。母親が病気だからと聞いた。一緒に登下校出来ない日は心細かった。

 後ろの席の女子は頻繁に、クラスの子に上手い事言って私を呼び出す様になった。

 トイレから出られないようにされ、授業中も閉じ込められた。休憩時間になるとドアの外のストッパーを外すの。先生も私が授業をさぼっていると思っていたらしい。ホースで頭から水をかけられ、長い柄のある束子で “汚い、臭い” と言って、制服をゴシゴシこするの。怖くて抵抗できなかった。体育館の後ろは急な斜面になっていて、何度も突き倒され転がった。学校に行けなくなった。

 親にも先生にも言えない。

 毎朝、家を出て親が仕事に出かけてから家に帰る。

 2年になる時、先生からの連絡で親が初めて不登校を知った。

 3年になり、スクールカウンセラーのカウンセリングを受けることになり、最初は電話とメールのやり取りだけだったけど、皆が授業中だったら会わなくて済むからと言われて相談室に行くことになった。」

『ほう』

「1学期も後半、カウンセラーからサポート教室があることを聞き、そこに通う事になったの。そうしたらアパートの子も通っていて、また一緒に通った。

 サポート教室は不登校の生徒や経済的に苦しい子ども達の教室だった。

 教室は居心地良く、先生達は真剣に話を聞いてくれた、勉強が楽しいって初めて思ったの。

 そろそろ志望校を決めなくちゃ、皆と同じように高校見学に行った。アパートの子は成績が良くて、おにぎり屋さんのおばさんの援助もあって有名な私立高校に合格!すごいでしょ。将来は看護師さん!私はというと、あこがれのダンスで有名な私立高校は出席日数が足りず断念。サポート教室の先生が、不登校枠がある高校を調べてくれて、それが今の高校、ダンス部はある。だけど行きたかった私立高校には負ける。

高校進学やめて働こうかな、どうせ、うちは貧乏だし。

 サポート教室の先生は、たくさん悩んでいいよって、進学も就職も焦って決めなくていいよって、自分で悩んで自分で決めていいよって、言って待ってくれた。

悩んで悩んで決めた!決めた理由は、ダンス部を日本一にしようって決めたから!」

『ほっ、ほう!』

~満天さんのつぶやき~

『みんなが持っている、乗り越える力

もう、君は大丈夫

ダンスは世界でNO1




人生変更

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

扉の向こうにいる方は、、、どなた?

~ 人生変更 ~

「生き方を変えてみようかな。」

『ああ』

 

「今までは与えられた人生、悲しいけどすべてを自分の中に閉じ込めて、ただただ生活のためだけの人生。」

『うむ』

 

「高校を卒業後、僕は自衛隊に入隊した。同級生たちと同じように就職や進学も考えたが、でも僕の選択肢は限られていた。

 自衛隊は意外にも僕にあっていた。心地良かった。一日の時間は秒刻みで規則正しく動いていた。秩序があり、それに従っていれば良かった。やるべきことをしていれば誰かに何か言われることはない。

 僕は几帳面な性格、迷彩服や軍服などのアイロンや靴磨き、心地良い出来栄え、寮生活は不自由もない、栄養管理も充分な食事、便利な生活。日用雑貨も自分が使用する物だけ補充しておくだけで充分だった。

 休みもあり外出や外泊は許可が必要だが自由だった。僕には家族も友達と呼べるほどの親しい人もいないから、休みの日はプラプラと散歩や買い出し程度で済ませていた。残留といって、戦争や災害などの緊急事態が起きた時の為に、先遣隊要員として一定数の隊員を基地、駐屯地に残しておく制度があったが、意外とこれが程よい緊張と同時に静かな休日代わりにもなり、僕にはこの上ない時間だった。」

『ふん』

 

「僕の本音は人との付き合いが苦手で、感情や気持ちとかは何とも面倒で扱いにくい。

僕は生まれてすぐに施設に預けられ、そのままずっと施設で育った。施設では集団生活もそれなりに上手く出来た、僕なりに感情をコントロールするすべを学んだ。集団生活を生き抜く知恵も身につけた。後で知った事だが、違う施設出身の人から酷い施設もあったと聞き、“まあ、仕方ない”と互いに言い聞かせた。」

『ふう』

「自衛隊の寮生活にも慣れた頃には周囲の様子も理解出来た。縦社会の厳しさも痛いほど学んだ。僕は人の機嫌を損ねるような事は極力避けてきたし、人から嫉まれる事や反感を買うような事もあまりなかったが、中には不器用な奴もいて目をつけられると散々な事になる。周囲から見るとトロイ奴だと思われる者、周囲の空気が読めない奴や、または抜きん出ようとして集団からはじき出される者もいた。まあ、それも性格だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。ここでは集団で責任を取る事になるため、一人の隊員が足を引っ張る訳にはいかない。それはそうだ。戦争や災害が起きれば、皆がそれぞれの任務をしっかり果たさなければ大惨事を起こす事にもつながる。だからこそ、お互いを信じ、任務を遂行する。しなければ命を落としかねない。訓練ではそんな人間関係も学んだ。」

『ほう』

「2任期を終えそろそろ潮時、警察官や公務員も考えたが民間企業に就職が決まった。部屋も直ぐに見つかった。ところが初めての一人暮らし、何から何まで自分でしなければ。まあ、それでも出来ない事は何一つないさ、自炊も規則正しい生活も。

 今まで集団生活しか経験のない僕が誰もいない一人暮らし。初めての一般社会との関わり。今までは24時間、集団の中で人の動きを見ながら自分の立ち位置を考える生活だった。

確かに職場でも周囲の観察は出来たし、規則もある。でも何かが違う。社員は皆、競争社会の中にいて、チームプレイと言いつつも自己アピールを上手く出来ないと上司に気に入られない。言葉では相手に合わせているが行動は真逆。自分を皆より前に出し、思考をフル回転させる。ノルマを果たし結果を出す。上司も先輩も僕には上辺だけの人間に見えてしまう。敵陣地の中に僕一人といった状況だ。段々と僕は仮面をかぶるようになった。

仕事を終えて自宅に戻るとホッとしたが僕は一人だ。部屋は暗い、食事も一人。当たり前だ。

僕は自分の気持ちを制御することが出来ると信じていた。しかし、今、改めて思った。今までの僕は施設のサポートがあり、自衛隊では秩序の下にいた、だからこそ気持ちのコントロールが出来ていたんだ。」

『ふむ』

「ある朝、目が覚めたら体が動かなかった。重い、脱力感。何とか携帯電話に手を伸ばし、休みをもらった。そんなことが数回続いた。思い切って受診した。

 そして僕は退職した。あれほど体力に気力に自信があった僕が。

 施設にいる頃、社会に出たら自由に思いっきり人生を楽しもう、もう過去はいらない。僕は一人、ここを出ることが出来たら自分で自分の人生を築こうと思っていた。」

『ああ』

「僕がどうしてこの世に生まれたのか、どうして親は僕を産んだのか、どうして僕を手放したのか、どうして僕はここにいるのか、何も分からない。

 僕は変わろうと思う。僕は前に進むんだ。

 すべてを許したい、そして僕自身も許す。そして生きようと思う。

思いっきり!」

~満天さんのつぶやき~

「生きること、それを選んで君はここにいる。

すべては、君自身が決めて選んだこと。

もう、気づいているよね。」





糸の緩し

満天さんの談話室

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

今日は天からの祝福を受けた幸せな方がいらしたようです。

~ 糸の緩し ~  

「やあ!」

『やあ!』

「今日は、天赦日、最強な日!」

『神様の祝福日! 天上はお祭り、輝かしい!』

「あぁ、目に浮かぶようだな!素晴らしい光景が!」

『君も!さあ、祝福!愛に調和に!富に繁栄!弥栄!』

「僕の祝福を伝えたい。」

『ああ!』

「もう何年も経つ。家の神棚もそのまま祀りっぱなしで、手も合わせる暇もなく、神社に行くことだって遠ざけていた。日常の生活に追われ、心の中では神を求めていた、“これを終えたら手を合わせよう”、“一区切りついたら神社に行こう”と、いつの間にか後回しにしていた。

日に日に疲れが溜まり気持ちと体がバラバラになっていく、そんな生活が何年も続き、僕は自分の気持ちを無視してきた。そのうち、遠い昔のあの頃の虚無感がまた僕を襲いだした。」

『ふん』

「僕はね、幼い頃から悲惨な光景ばかり見てきた。親や親族の醜い争い、暴言暴力。“もう、やめてくれ!” 叫びたい、でも言えない。それが僕さ。親は離婚して、僕は親戚中たらい回し。記憶も飛んでいた、思い出したくない記憶もあるだろうから、僕は僕をそっとしておいた。幼い時の僕はどうやって生き延びようとしていたのだろうか。

 日々が暴力の対象、薄汚れた生活、逃れられなかった。

 ある日、いつかな、従兄に虐待された。

ある晩、従兄が家に来た。何しに来たか、弾みで僕にそうしたのか、それともはじめからそのつもりだったのか。二間の団地さ、しばらくして母が隣の部屋で寝静まり、何が何だか分からなかった、母に気づかれないように声も出せなかった。どうして気づかれないようにしていたんだろう。

泣いた、泣いた、泣いた、声も出さずに思いっきり。今なら!大声で叫ぶさ!やめてくれ!と。母は気づいていたのか、もしくは見て見ぬふりか。

そのうち母の友人の息子が家に遊びに来るようになったさ、何をするために、それは僕を虐待する為に、母がいる時は僕をドライブに誘う、母はどうして僕を行かせたのか、まだ子供の僕が連れ出されることを不自然に思わなかった。母が家にいない時は、我が物顔で、僕を虫けらのように扱った。あの時も誰にも言えず、僕はへらへらしていた。僕の事なんて、どうせ信じてもらえない、分かってもらえない、僕が悪いと言われる。僕の心は破綻していった。僕の体から魂が欠けた。

ある晩、見てしまった。母は隣の部屋で自分の下半身をじっと見ていた、何かしていた。母はその後、隣の部屋にいた僕に、こう言ったんだ。「弟の学校で虱が出た」母は僕に下半身を見せろと言った。僕は無言で家を出た。恐ろしかった。母が!虱!僕のせいにされる、殴られ、蹴られ、罵倒される。もしくは、あの男達から受けた屈辱を母からもされるのではないか。とにかく恐ろしかった。逃げ出したかった。

家を出た後は働いた、がむしゃらに。何でもした、とにかくできる事は、この身体も使ったさ、今まで虐待されて育ったからね。

僕の心は毎日、毎晩、蝕まれていった。僕は生きている限り、母との暮らしに戻りたくなかったし、母の人生を僕に重ねたくない、その思いだけで生き抜いてきた。」

『ふぅ~』

「ある夏、山頂のレストランで働いた。ある日の早朝、オーナーに連れられて、その山の神社に向かった。

 肌に緊張が走り続けた、空気はひんやりとしていた。僕の心はしだいに緊張から空白に、そして静寂の中にいた。

 ご神体を目前として、一滴のしずくが頬を伝ったと感じた途端に涙が溢れ出た。そこは何もない透明の世界だった。匂いもなく、空気のすれ違う音さえなかった。すべてが抜け消えた。

 赦された、全てが、僕の体が緩んだ。」

『許す!』

 

「僕の人生はその夏から大きく変わった、オーナーの配慮で僕はそのホテルで数年働いた。オーナーの口利きで都心のホテルに転職も出来た。全てが整いだした。女性と恋に落ちた。僕の人生で考えられない事だ。十分に幸せを受け取った。

 それと同時に怒涛の忙しさもやってきた。日常の生活に追われ、しだいに僕は神から遠ざかっていた。

 ある日、親族の集まりがあり僕は出かけた。母と再会した。母と会う覚悟はしていた。母は僕が思っていた以上に若くきれいで幸せな人生を送っているようだった。まるで別人だった。

 僕の耳が心臓の鼓動が激しく波打ち、全身が震えている、僕の人生を破壊した人間が目の前にいる。まるで何事もなかったかのように!

 僕は平静を装い、礼儀正しく接した。」

『許す!』

「僕は一人泣いた。あの夏の日のように。

 そして、この山に戻った。

再び、僕の体が緩みだした。」

~満天さんのつぶやき~

『人はね、記憶にないほどの遠い遠い過去から紡がれて来たんだよ。

君の知らない君の過去。

記憶にさえない過去の糸を緩ませ、ほどき、許してごらん。

 その瞬間、全てが赦される。

神が祝福される。』



お誕生日のおつり

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

今日の来談者は、おやおや、、、

~ お誕生日のおつり ~

『やあ。』

「こんにちは!決まったのよ!」

『ん?』

「お金の使い方。」

『ほう。』

「昨日は娘の誕生日、お財布の中身はちょうど1万円札1枚。ホールケーキを買えるほどの余裕はないけどショートケーキなら親子で3つ買えるわ。駅前のケーキ屋さんがいいわ。お夕飯は手巻き寿司。冷蔵庫のレタスにきゅうり、卵を焼いて、納豆もツナもあったわ。夕方の見切り品でお刺身を買って。ちょっと贅沢かな?

お誕生日だからちょっと奮発。残り数日で家計のやりくり工夫して。

さあ、お買い物。夕飯のお買い物を終えて、ケーキ屋さんで “ショートケーキ3つ下さいな、イチゴで飾られているショートケーキ” 消費税込みで1,290円、なかなか良いお買い物。おつりもらって、自宅まで歩いて帰りましょう。節約、節約。」

『ほお~』

「まずはお洗濯物片づけて、さあ夕飯の準備、娘もお手伝い?っぽいね。えらいわ~。あらあら、パパが帰ってくる時間ね。お風呂の準備もOK!

“ おかえりなさい “

“ ただいま帰りましたよ~、お誕生日おめでとう。ふふふ、ちょっとお小遣い奮発!はい、お誕生日のプレゼント、アクセサリージュエリーキッズ 888円。この数字すごいだろう、末広がりさ、娘の将来が楽しみだな~、きっと末広がりに幸せが広がるね “

 ふふふ、単純さがパパの良いところ。たまに子どもすぎて面倒って思う時もあるけど。 

“ さあ、手巻き寿司パーティー、お誕生日おめでとう “ 」

『ふん。』

「家族3人のお誕生日会も終わり、さて、家計簿ね。

 ん?合わない!夕飯のお買い物、1万円札出してと、ケーキ屋さんで5千円出して、おつりは3,710円、ん、8,710円。あら、嫌だ、あのケーキ屋さん、おつりを間違えているわ。レジの集計合わなくて困っているんじゃないかしら。

 私の変顔を見つけてパパがきた。おつりの話をすると。

” えっ!ラッキー!えっ!もらえないの?返すの?店に?本当はママのへそくりにするんじゃないの?それってずるくないか!パパはね、お誕生日プレゼント、パパの少ない小遣いで買ってさ。ママはケーキ屋さんでおまけのメッセージカードだろ、あ~あ、パパだってコンビニのコーヒーや自販機で冷たいコーラ我慢してさ、パパだって頑張っている!えっ?分かっているって?だったらさ!ダメ?店員さん困ってるから?

 もういい!ママは本当に融通が利かないな!本当に返すのか!いや、一緒に返しに行こう!何なんだよ!返すところ見るから!パパに内緒でその5千円掠め取るつもりだろう。

 えっ?駅で待ち合わせ?よし!そうしよう “

パパ、いい加減にして~!まるで子ども!面倒臭い!もう!」

『ほっほう!』

「今日パパは機嫌悪く出勤。私はパパの時間に合わせて家事をテキパキ。帰りは3人で駅から歩きましょう。パパの機嫌も直ってくれればいいけどね。娘は早めの夕食とお風呂を済ませてと。ああ~忙しい!

 夕方、ケーキ屋さんに行くとそこにいたのは店長さん。おつりの話をすると確かにレジのお金が合わなかったとおっしゃった。

 ところが、店長さんは、

“ わざわざ返しに来てくれてありがとう。でもね、その5千円、うちの店員に確認したいけど今日はお休み。それにその店員、どのタイミングで間違えたか気づいているかな。一日、たくさんのお客様がいらっしゃるし。他にもおつりを間違って渡している人もいるかも知れないし、たまたま合わないレジの金額は同額だけど、その時に気づいてくれないとね。あなた方の言うことが正しいかとも思うけど、お店側としたら確認の取りようがないから受け取れないの。せっかく来てくれたのにごめんなさい “

“ えっ、えっ、えっ~ “ 」

『ほっ、ほう!』

「結局、5千円は返せずに。

 自宅までの道のり、パパは無言。

 さあ、自宅に戻りパパの食事もお風呂も済ませ、あら、娘はまだ寝ないのね。困ったわ。

 パパと娘と私と川の字、お布団でごろごろ。

 すると娘から “ ゴセンエン、どうするの? “

“ どうしたらいいか、みんなで考えよう “ とパパ。

“ 私ね、いいアイデアがある!もう1回、お誕生日会するの。手巻き寿司とイチゴのお祭り盛盛ショートケーキで!ママの手巻き寿司、最高!世界中の人とみんなでお誕生日会!みんなで楽しくって、美味しいお誕生日会 “

 パパも私も大賛成!それなら世界中の人にこのお金で祝ってもらおう!みんながお誕生日!そして寄付をすることにしたの。パパが決めたの、そうゆうことしてみたかったんだって!

 パパは本当に単純、” 888円の末広がり、お誕生日プレゼント、娘の将来は絶対幸せになる!世界中で大事にされるほど幸せになる“ って得意げに話してた、ふふふ。」

~満天さんのつぶやき~

「お誕生日!おめでとう!

皆、祝福を受けてここにいるんだよ。

見てごらん!

お金が喜んで微笑んでいる!」


ママ、仕事にいかないで

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

おや、おや、ちびっ子が来た。

~ ママ!仕事にいかないで! ~

『おや』

「神様が願いを叶えてくれたの!」

『ほう』

「あのね、初めてのお留守番、ママはお仕事に行くから、夜は一人でお留守番。

 でもね、怖くて寂しくてたまらなくて家を飛び出しちゃったの。」

『うぬ』

 

「あの日、おばあちゃんのお家にパパが迎えに来て、ママはパパと一緒に住む事になったから、あーちゃんとお引越し!おばあちゃんのお家からお引越し!

 新しいお家で、パパとママと3人の生活。パパと会ったのはお引越しの日だけ。お引越しの日、パパはおばあちゃんに何かお話していた。おばあちゃんは泣いていて、ママの顔は真っ黒になった。

 お引越しすると、ママは直ぐにお仕事を始めたの。ママは生活のためって言うの。あーちゃんにお洋服、お靴を買って、美味しいお料理も、あーちゃんが大人になって幸せになるためにお勉強できるようにお金が必要だって。だからママは頑張って働くの、あーちゃんのために。

朝から夜まで保育園。絵本を読んで、お絵かきして、お歌もね。おもちゃもたくさん。夜になるとお部屋の中に小さなお布団をたくさん敷いてみんなで寝るの。お部屋は真っ暗になって、怖くて泣いてばかりいたけど、そのうち疲れて寝ちゃうんだ。お布団の隅をもみもみしていると、ママの胸に抱っこされているみたいで落ち着いてくるの。

 朝から夜までママはお仕事。朝のお出かけの準備時間があーちゃんとママのお話の時間、抱っこしてもらえる大事な時間なの。」

『ふう』

 

「あぁ!おばあちゃんのお家はね!レンゲやツメクサで花冠や首飾り、あーちゃんはお姫様。ぺんぺん草やカラスノエンドウ、ノゲシやたくさんの野花でお皿を飾るの。草笛の合図で、さあ、パーティー!

夏は、お野菜取りを手伝うの。近くの小川は一人で行ってはダメ、おばあちゃんと一緒!メダカやドジョウ、小さなお魚さん達と小川の中をお散歩したよ。夜になると楽しい蛍のダンス!

トンボが来る頃には、山栗拾いやアケビの実をとりに行くの。美味しい手料理、ご馳走!夜にはマツムシ、スズムシ、コオロギ達、みんなが競って演奏会!

冬になるとね、囲炉裏がとっても暖かい。あーちゃんは囲炉裏が大好き。お餅やお魚だって焼けちゃうよ!」

『ほう!』

「あぁ!新しいお家ではね、ママとお散歩たくさんしたよ。お買い物や公園も行ったよ。お仕事に行くときは駅までたくさん歩くの。ママと手をつないで、抱っこされて、ママはね、急いでいる時はあーちゃんを抱っこしてくれるの。その時は、嬉しくて、でも悲しくて寂しくて、気持ちはぐちゃぐちゃ!

 こっそり、神様にお願いするの。おばあちゃんのお家に帰れますように、ママがお家にいられますようにって。」

『あぁ!』

「あの日、夕方になって “ ママはお仕事があるけど、今日はあーちゃん、一人でお家でお留守番、誰か来てもお部屋から出たらダメだよ。寂しくないように、TVも電気もつけて、お菓子もジュースもあるからね。今日はママと一緒に行けないの。終わったらすぐに帰ってくるからね、いい子に待っていてね ”

あーちゃんは何が何だか分からず一人になった。だんだんお外は暗くなって、TVは何かやっていた、ジュースもお菓子もあった。

怖くなって寂しくて、玄関で座ってママを待っていたけど、長い時間待っていたけど、ママは帰ってこない、まだ仕事終わらないのかな、ママ、どうしたのかな、ママ!ママ!ママ!

 外に出たの、泣きながら。

 お外は真っ暗、ずっと泣いていた。」

『!』

「お巡りさんがおばあちゃんを呼んでくれたの。おばあちゃんが迎えに来てくれたよ!」

『ああ!』

「ママはね、もう働かなくていいのよ。どうしてか知ってる?

あーちゃんは知ってるよ。満天さんにだけ教えてあげる。」

『何だい?』

「ふふふ、パパと別れたから。ママはね、パパが一度もお家に帰って来なくても一人で頑張っていたの、パパのために、あーちゃんのために。でもね、もうパパのために頑張らなくていいのよ、あーちゃんのために頑張らなくてもいいの。

 お巡りさんがママに話していたの、“ これであなたは解放されましたよ。おばあちゃんと、あーちゃんと元の生活に戻れように早く手続きを済ませて下さい。何かあればすぐに警察に相談してください ”って。

 ママはあーちゃんに何度も謝っていたよ。“ごめんね、ごめんね”って。

 ママに言ってあげたの。“ あーちゃんはね、お洋服もお靴もいらないよ。美味しいごちそうはおばあちゃんの田畑に川に山にあるよ。お勉強はあーちゃん自分で頑張ること出来るもん。立派な大人になるよ、だから何もいらないよ、あーちゃんが一番欲しいのはママ! ”」

~満天さんのつぶやき~

『 いつも抱きしめてあげて

その腕に

いつも微笑んであげて

その瞳に

ぬくもりを 微笑みを

愛を伝えてあげて

あーちゃん、ママ、もう頑張らなくていいんだよ。』


見栄っ張り

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

お~や、あれに見えるは、、、

~ 見栄っ張り ~

「満天さん、ごめん。」

『ああ』

 

「あの頃は生活が乱れ、言い訳だな、健康管理を怠っていた。なんとなく疲れる、胸がざわざわ、頭はズキズキ、もやもや、夜中に幾度となく目が覚める。そろそろ歳だ、一度ぐらい健康診断を受けてみるか、予約するのも面倒だ、それがやばかった。

そもそも病院ってところは何とも居心地が悪い。待合室は地元の老人達の集会場と化し、近所の噂話が充満している。長い時間待たされて、それこそ健康な人間が”待合室病”になっちまう。

自分が受診!ああ、とんでもない。病院なんて億劫だ。この不精な性格、浅はかな考え、しかし、とうとう受診、“ 血圧高いですね、薬出しておきますよ ” まあ、そんなところかと思い、薬も飲んだり飲まなかったりと、それだけで何となくやり過ごしていた。」

『うむ』

 

「大学時代はバイトやレスリングに明け暮れ充実した生活、楽しすぎて単位を一つ落として1年留年。親父にどうするかと聞かれ、自分でバイトするから一年だけ行かせてくれと言ったら、結局、学費を出してくれた。バイト先で知りえた伝手もあり就活も苦労することなく卒業後はある企業に就職、自立し順風満帆!

 40も迎えようとする頃、特に何かあった訳でもなく、深い意味もなく、あっさりと退職。強いて言えば、 ”そろそろ人生を変えてみよう” などと能天気な浅はかな考え。不思議に両親からも何か問い正されることもなかった。親父から「もったいないな」と言われただけで。

 実家に戻って地元の会社で10年ほど働いた。生まれ育った地元に馴染めず、実家が妙に居心地悪く感じていた。親父が「家に息子が戻ってきた」と近所に話していた。どんな気持ちで話していたかは分からない。何かバツの悪い気持ちが後を絶たず会社に出勤するのも近所の目を盗むようにコソコソと出勤したものだった。」

『ふん』

 

「親父は厳格なサラリーマン、お袋は昔ながらの女で、親父や自分達の世話に明け暮れていた。

 親父は見栄っ張りで外見を気にする人だった。世間体をとても気にしていた。近所に役所の世話を受けている人物がいたが、親父はいつも「毎日プラプラと朝から出かけてパチンコか酒を食らってはふざけた奴だ。」とぼろくそに悪口を言っていた。そんな親父を見ていると自分は転職したことを遠回しに責められている気がしていた。

 地元に戻ってきた時、本当はしばらく仕事もしないでプラプラしたかったが考え直し、すぐに仕事に就いた。自分も親父の子、世間体を気にして見栄っ張りな性格もあるからな。地元の会社に就職が決まった時は、何だか残念に思いつつも、まあ体裁も取れたかとホッとした。」

『ほっほっ!』

「そんな親父も定年退職後の深酒が祟り、入退院を繰り返した。お袋も同じ頃から体調を崩し、あっという間に部屋を四つん這いで這うようになり、会話もチンプンカンプン。お袋と会話が出来ない、その時はお袋に随分と歯がゆい思いをさせたかと思って心苦しくなった。食事や水を飲むことさえも難しくなり介護も大変になった。頑固な親父と出来の悪い息子に対する初めての抵抗かとも思えた。あんなに体裁を気にしていた親父は、最後まで酒を手放せず、お袋が亡くなると恥ずかしい話だが、さらに酷くなった。酒を片手にスーパーに酒を買いに行くやら、小便を漏らしていることも気づかず外を徘徊したり。なんてみっともないんだと怒鳴りつけたい気持ちにもなったが、自分も親父の血を引いているものだ。見栄っ張りで体裁を気にして、親父を責めることもなく、怒鳴ることもなく、良き息子を演じた。」

『ほう!』

「そんな中、異変が起きた。介護疲れか。やばいな、ぐったりだ。仕事も休みがちとなった。しかし、理解のある会社もあるもんだ。介護休暇も使い、社長はなんていい人なんだ!と思うほど良くしてくれた。職場の皆からも“病院行きなよ” と言われた。

 よし!今回はもう少し大きいな病院で検査しよう!地元の脳神経外科を受診した。進歩だ、この不精な自分が!病院なんて!本当に億劫な自分が!

先生の一言、“ああ、脳梗塞ありますね” 。待合室の事をよく覚えていないが、やっぱり病院は面倒臭いな、病名なんかあるものか、もうどうでもいいか。入院も処方箋もなく、次回の予約も取らず帰宅した。

 自分は本当に浅はかだ、見栄っ張りだ。仕事を辞めてよかったのに。病院にこれ以上行くつもりもないくせに、辞めたら病院に行けないじゃないか、保健証はどうするんだ、近所からなんて思われるんだ。

 あぁ、体は正直だ。倒れて病院に運ばれた。

見栄を張らず、面倒臭がらず、素直に生きてこれたなら、ごめんな。」

~満天さんのつぶやき~

「その体、貸しているだけだからね。

いずれは、そこから出ていくの。

取扱説明書、この世に誕生する前に読んだよねぇ~。」