過酷な勤務

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

やあ、これは、これは、

~ 過酷な勤務 ~

「お久しぶりです。」

『やあ、以前は聖徳太子さんでしたね。お姿も変わり活躍ぶりも素晴らしいですなぁ』

「ありがとうございます。

実は、私は初めての福沢諭吉で、偉大なる聖徳太子より命を受けてこの壱萬圓札に生まれました。」

『ほう!』

「命を受けて一定期間、我々は金庫の中で研修を受け、使命を学びます。その後、金融機関を回り、徐々に人間社会にデビューします。我々の仕事は人間界の物質面、人々の感情や思考を動かすほどの威力を授けられておりますので、忍耐、辛抱と精神的にも辛くなることの連続です。責任が重く圧し掛かってきます。」

『お気持ち察しますよ。』

「ありがとうございます。

 最近、私はある賭博場に配属となりました。換金所には老女が穏やかな面持ちで椅子に

腰かけていました。そして我々に笑顔で丁寧に「お疲れ様、今日もよろしくね」と声を掛

けてくれました。」

『ほう!』

「しばらくすると男がきて、私はその男のズボンのポケットに移動しました。

ポケットの中では、野口英世さん方々が私を迎えてくれました。皆様方の活躍ぶりは素晴らしく、多くの人間の生き様を見てきたようです。この男も惨めな酷い生活を繰り返し、野口英世さん方々は、相当お疲れで早く次の勤務に移動を希望されていましたよ。

 男は帰宅途中で酒や煙草などを買いました。数枚の野口英世さんとお別れです。通常なら別れ惜しいのですが早く男と別れたかったのでしょう、喜んでスーパーのレジへと直球で飛び込んでいきましたね。

 その夜、男はある建物へ向かいました。そこには女性が数人おり、男は私を含め何枚かの福沢諭吉の方々を女性達に渡しました。私はある女性のバッグへ移りました。

女性は仕事が終わり帰宅すると、そこは男の部屋でした。男は留守で、女性は私達お札を財布から取り出しきれいに拭くと、我々に “ お札様、私のところに来てくれてありがとう。私の母はそろそろ仕事も出来なくなるの。私は母と一緒に暮らせるように頑張っているの。もうすぐ、私達は引っ越しするのよ。母と暮らせるように。

彼が明日、貴方達お札様を銀行に預けてくれるから。随分と貯金も出来ていると思うわ。彼と一緒にこの仕事から足を洗い普通の家庭を持つのよ。少しの間、銀行で休んでね。また会える日までね。” と丁寧に話しかけてくれました。」

『ほう』

「ああ、明日は銀行か、一休みだ、と考えているとお財布の中のお金達が騒ぎ始めました。

 もう潮時だ、あの男に何度もチャンスを与えてきたが、ここで縁を切ろう!辛いがこれも我々の仕事だ。

実は、あの遊技場の換金所の老女は、この女性の母親で、老いた体に鞭打って働いているのですが、最近は足腰も弱って一人暮らしもきつい様です。男はこの親子から金銭を巻き上げ、その上、近々、女性はその男と仲間の連中の店で働かされ、女性と母親は引き離されます。女性は何も知らず、この先、二度と母親には会えないとお財布の中では大騒ぎとなりました。お札達も “もう限界” と騒ぎ出したのです。」

『ほう』

「話し合いの結果、満場一致で我々は、女性と母親に新しい人生を送ってもらう事にしました。そして我々は男から去る事にしました。これも深い愛ゆえの結論です。」

『ほっほほう!』

「戦闘は明日、それに備えて我々は眠りにつきました。

 次の日の朝になり、いつものように女性は近くに住む母親のアパートに、出かけていきました。男もいつものように女性が出かけた後に、だらだらと起きて来て女性のお財布から福沢諭吉だけを抜き取りました。男は遊技場が開店する前にある店にモーニングに行くのです。この店の女子大生を目当てに。

その後、いつものように遊技場へ、その日は一人勝ち、とんでもなく儲けさせてあげましたよ。これも我々の作戦ですがね。

男は気持ちも大きくなり “ 今日こそは ” と女子大生を待ち伏せていました。女子大生は男にすぐ気づき、その場から逃げ出そうとした!その瞬間!男が遮り、通行人たちが一斉に騒ぎ出し、男はその場にいた群衆を突き飛ばし、その勢いで女子大生も転倒し、数名に大けがを負わせてしまいました。警察が来て、結局、男はそのまま警察に連れていかれました。

 その事件は女性と母親が聞くところとなり、男と仲間は皆、御用となりました。

 女性と母親には貯金も何も残っていませんが、警察署の方や多くの支援を受けて、二人で生活が出来るようになりました。その時はね、我々は喜んで働きましたよ。誰かに喜んでもらえるような、そんなお金の使い方をされると嬉しいものです。

 悪どい使われ方では、我々も逃げ出したくなるんですよ。

 

~満天さんのつぶやき~

『お金も人も一緒だね。

人に喜んでもらえる使われ方、生き方!

さらに生きがいが見つかって

富で満たされる!ね!

お疲れ様!』