人生変更

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

扉の向こうにいる方は、、、どなた?

~ 人生変更 ~

「生き方を変えてみようかな。」

『ああ』

 

「今までは与えられた人生、悲しいけどすべてを自分の中に閉じ込めて、ただただ生活のためだけの人生。」

『うむ』

 

「高校を卒業後、僕は自衛隊に入隊した。同級生たちと同じように就職や進学も考えたが、でも僕の選択肢は限られていた。

 自衛隊は意外にも僕にあっていた。心地良かった。一日の時間は秒刻みで規則正しく動いていた。秩序があり、それに従っていれば良かった。やるべきことをしていれば誰かに何か言われることはない。

 僕は几帳面な性格、迷彩服や軍服などのアイロンや靴磨き、心地良い出来栄え、寮生活は不自由もない、栄養管理も充分な食事、便利な生活。日用雑貨も自分が使用する物だけ補充しておくだけで充分だった。

 休みもあり外出や外泊は許可が必要だが自由だった。僕には家族も友達と呼べるほどの親しい人もいないから、休みの日はプラプラと散歩や買い出し程度で済ませていた。残留といって、戦争や災害などの緊急事態が起きた時の為に、先遣隊要員として一定数の隊員を基地、駐屯地に残しておく制度があったが、意外とこれが程よい緊張と同時に静かな休日代わりにもなり、僕にはこの上ない時間だった。」

『ふん』

 

「僕の本音は人との付き合いが苦手で、感情や気持ちとかは何とも面倒で扱いにくい。

僕は生まれてすぐに施設に預けられ、そのままずっと施設で育った。施設では集団生活もそれなりに上手く出来た、僕なりに感情をコントロールするすべを学んだ。集団生活を生き抜く知恵も身につけた。後で知った事だが、違う施設出身の人から酷い施設もあったと聞き、“まあ、仕方ない”と互いに言い聞かせた。」

『ふう』

「自衛隊の寮生活にも慣れた頃には周囲の様子も理解出来た。縦社会の厳しさも痛いほど学んだ。僕は人の機嫌を損ねるような事は極力避けてきたし、人から嫉まれる事や反感を買うような事もあまりなかったが、中には不器用な奴もいて目をつけられると散々な事になる。周囲から見るとトロイ奴だと思われる者、周囲の空気が読めない奴や、または抜きん出ようとして集団からはじき出される者もいた。まあ、それも性格だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。ここでは集団で責任を取る事になるため、一人の隊員が足を引っ張る訳にはいかない。それはそうだ。戦争や災害が起きれば、皆がそれぞれの任務をしっかり果たさなければ大惨事を起こす事にもつながる。だからこそ、お互いを信じ、任務を遂行する。しなければ命を落としかねない。訓練ではそんな人間関係も学んだ。」

『ほう』

「2任期を終えそろそろ潮時、警察官や公務員も考えたが民間企業に就職が決まった。部屋も直ぐに見つかった。ところが初めての一人暮らし、何から何まで自分でしなければ。まあ、それでも出来ない事は何一つないさ、自炊も規則正しい生活も。

 今まで集団生活しか経験のない僕が誰もいない一人暮らし。初めての一般社会との関わり。今までは24時間、集団の中で人の動きを見ながら自分の立ち位置を考える生活だった。

確かに職場でも周囲の観察は出来たし、規則もある。でも何かが違う。社員は皆、競争社会の中にいて、チームプレイと言いつつも自己アピールを上手く出来ないと上司に気に入られない。言葉では相手に合わせているが行動は真逆。自分を皆より前に出し、思考をフル回転させる。ノルマを果たし結果を出す。上司も先輩も僕には上辺だけの人間に見えてしまう。敵陣地の中に僕一人といった状況だ。段々と僕は仮面をかぶるようになった。

仕事を終えて自宅に戻るとホッとしたが僕は一人だ。部屋は暗い、食事も一人。当たり前だ。

僕は自分の気持ちを制御することが出来ると信じていた。しかし、今、改めて思った。今までの僕は施設のサポートがあり、自衛隊では秩序の下にいた、だからこそ気持ちのコントロールが出来ていたんだ。」

『ふむ』

「ある朝、目が覚めたら体が動かなかった。重い、脱力感。何とか携帯電話に手を伸ばし、休みをもらった。そんなことが数回続いた。思い切って受診した。

 そして僕は退職した。あれほど体力に気力に自信があった僕が。

 施設にいる頃、社会に出たら自由に思いっきり人生を楽しもう、もう過去はいらない。僕は一人、ここを出ることが出来たら自分で自分の人生を築こうと思っていた。」

『ああ』

「僕がどうしてこの世に生まれたのか、どうして親は僕を産んだのか、どうして僕を手放したのか、どうして僕はここにいるのか、何も分からない。

 僕は変わろうと思う。僕は前に進むんだ。

 すべてを許したい、そして僕自身も許す。そして生きようと思う。

思いっきり!」

~満天さんのつぶやき~

「生きること、それを選んで君はここにいる。

すべては、君自身が決めて選んだこと。

もう、気づいているよね。」





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