空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。
おや、おや、ちびっ子が来た。
~ ママ!仕事にいかないで! ~
『おや』
「神様が願いを叶えてくれたの!」
『ほう』
「あのね、初めてのお留守番、ママはお仕事に行くから、夜は一人でお留守番。
でもね、怖くて寂しくてたまらなくて家を飛び出しちゃったの。」
『うぬ』
「あの日、おばあちゃんのお家にパパが迎えに来て、ママはパパと一緒に住む事になったから、あーちゃんとお引越し!おばあちゃんのお家からお引越し!
新しいお家で、パパとママと3人の生活。パパと会ったのはお引越しの日だけ。お引越しの日、パパはおばあちゃんに何かお話していた。おばあちゃんは泣いていて、ママの顔は真っ黒になった。
お引越しすると、ママは直ぐにお仕事を始めたの。ママは生活のためって言うの。あーちゃんにお洋服、お靴を買って、美味しいお料理も、あーちゃんが大人になって幸せになるためにお勉強できるようにお金が必要だって。だからママは頑張って働くの、あーちゃんのために。
朝から夜まで保育園。絵本を読んで、お絵かきして、お歌もね。おもちゃもたくさん。夜になるとお部屋の中に小さなお布団をたくさん敷いてみんなで寝るの。お部屋は真っ暗になって、怖くて泣いてばかりいたけど、そのうち疲れて寝ちゃうんだ。お布団の隅をもみもみしていると、ママの胸に抱っこされているみたいで落ち着いてくるの。
朝から夜までママはお仕事。朝のお出かけの準備時間があーちゃんとママのお話の時間、抱っこしてもらえる大事な時間なの。」
『ふう』
「あぁ!おばあちゃんのお家はね!レンゲやツメクサで花冠や首飾り、あーちゃんはお姫様。ぺんぺん草やカラスノエンドウ、ノゲシやたくさんの野花でお皿を飾るの。草笛の合図で、さあ、パーティー!
夏は、お野菜取りを手伝うの。近くの小川は一人で行ってはダメ、おばあちゃんと一緒!メダカやドジョウ、小さなお魚さん達と小川の中をお散歩したよ。夜になると楽しい蛍のダンス!
トンボが来る頃には、山栗拾いやアケビの実をとりに行くの。美味しい手料理、ご馳走!夜にはマツムシ、スズムシ、コオロギ達、みんなが競って演奏会!
冬になるとね、囲炉裏がとっても暖かい。あーちゃんは囲炉裏が大好き。お餅やお魚だって焼けちゃうよ!」
『ほう!』
「あぁ!新しいお家ではね、ママとお散歩たくさんしたよ。お買い物や公園も行ったよ。お仕事に行くときは駅までたくさん歩くの。ママと手をつないで、抱っこされて、ママはね、急いでいる時はあーちゃんを抱っこしてくれるの。その時は、嬉しくて、でも悲しくて寂しくて、気持ちはぐちゃぐちゃ!
こっそり、神様にお願いするの。おばあちゃんのお家に帰れますように、ママがお家にいられますようにって。」
『あぁ!』
「あの日、夕方になって “ ママはお仕事があるけど、今日はあーちゃん、一人でお家でお留守番、誰か来てもお部屋から出たらダメだよ。寂しくないように、TVも電気もつけて、お菓子もジュースもあるからね。今日はママと一緒に行けないの。終わったらすぐに帰ってくるからね、いい子に待っていてね ”
あーちゃんは何が何だか分からず一人になった。だんだんお外は暗くなって、TVは何かやっていた、ジュースもお菓子もあった。
怖くなって寂しくて、玄関で座ってママを待っていたけど、長い時間待っていたけど、ママは帰ってこない、まだ仕事終わらないのかな、ママ、どうしたのかな、ママ!ママ!ママ!
外に出たの、泣きながら。
お外は真っ暗、ずっと泣いていた。」
『!』
「お巡りさんがおばあちゃんを呼んでくれたの。おばあちゃんが迎えに来てくれたよ!」
『ああ!』
「ママはね、もう働かなくていいのよ。どうしてか知ってる?
あーちゃんは知ってるよ。満天さんにだけ教えてあげる。」
『何だい?』
「ふふふ、パパと別れたから。ママはね、パパが一度もお家に帰って来なくても一人で頑張っていたの、パパのために、あーちゃんのために。でもね、もうパパのために頑張らなくていいのよ、あーちゃんのために頑張らなくてもいいの。
お巡りさんがママに話していたの、“ これであなたは解放されましたよ。おばあちゃんと、あーちゃんと元の生活に戻れように早く手続きを済ませて下さい。何かあればすぐに警察に相談してください ”って。
ママはあーちゃんに何度も謝っていたよ。“ごめんね、ごめんね”って。
ママに言ってあげたの。“ あーちゃんはね、お洋服もお靴もいらないよ。美味しいごちそうはおばあちゃんの田畑に川に山にあるよ。お勉強はあーちゃん自分で頑張ること出来るもん。立派な大人になるよ、だから何もいらないよ、あーちゃんが一番欲しいのはママ! ”」
~満天さんのつぶやき~
『 いつも抱きしめてあげて
その腕に
いつも微笑んであげて
その瞳に
ぬくもりを 微笑みを
愛を伝えてあげて
あーちゃん、ママ、もう頑張らなくていいんだよ。』