~ 再生 ~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

さあ、今日の訪問者は誰でしょう?

~ 再生 ~

『やあ!』

「覚悟を決めました。」

『おお!』

「私は今、ある女性の胎内で羊水に守られ “人” として生まれる準備を整えているところです。人間の神秘な働きでこの女性の意思とは関係なく私は守られ成長します。

私は、私自身の役割を果たすために、この人間社会に生まれるのですが、この女性に宿った時から私の遠い記憶は徐々に色あせていきます。本来なら記憶が薄れていくと同時に誕生への決意が強まるのですが、私は徐々に役割を果たす自信が薄れてきてしまいました。」

『なぬ?』 

「私は誕生後、数か月で人間社会を去ることになります、これもまた私の人生です。が、この胎内で女性の気持ちの揺れが、この羊水を揺れ動かし私に伝わってくるのです。

“ ああ、私はこの人間社会に生まれるのか、この人生を受け入れていくのだ。数か月の役目だ、この残忍な運命を受け入れていくのだ、これが私の成すべき運命だから ” と自分自身に言い聞かせています。」

『ふん』

「最近、この女性は夫婦関係に悩んでいるようで、夫は仕事も長続きせず転職を繰り返し家計は苦しく、経済的な援助は女性の親に頼りっぱなしで、女性もほとほと呆れているようです。

 実は、この夫婦には既に2人の子どもがいまして、私からすると兄と姉になりますが、今はある施設で保護されているのです。まあ、夫だけではなく、女性も似たようなもので、好き勝手の生活をして浪費も激しく、夫と一緒にギャンブルに夢中になり、夜も深夜まで遊び歩き、子ども達を放置していた為に近所の通報で子ども達と引き離されたわけです。

 そろそろ、夫婦の会話も私の未熟なこの耳に入ってくるようになります。誕生までこの夫婦の会話を聞きつつ羊水から伝わる感情を感じつつ成長してゆきます。

 私は誕生後、しばらくはこの女性の実家で親戚縁者に見守られ愛情豊かに育ててもらえます。特に女性の両親は私を最後までかばい守ってくれる役割です。

 夫はしばらくの間は働くのですが、そのうち、またゲーム三昧、酒やギャンブルに戻ります。女性も体力が回復し元気になると私の事は両親に任せっきりで夫と遊び歩くようになります。夫婦は女性の実家を出ることになりますが、女性の両親は私を引き取ってくれました。生後、6~7か月は私も落ち着いて乳児として役割を果たします。

 そのうち、女性は何を思ったか夫と別れたいとまた実家に戻ってきます。夫とのトラブルが続く日々の中、ある日、私は女性の母親と縁側でゆったりと午後のまどろみを楽しんでいますと、夫が忍び込み私をさらったのです。当然、大騒ぎとなりました。

 女性は夫のその行動を “愛情” と勘違いします。真実が見えるほど女性の心は成熟していません、というのも女性の精神はまだ大人ではないのです。女性の両親は、二人の関係を許しますが、その条件に二人の生活が落ち着き、自立した生活が出来るまで私を女性の両親に引き渡すことでした。二人はその条件を受け入れました。

私が女性と夫に連れられて女性の実家に帰るその日、二人は私を置き去りにしてどこかに出かけてしまいました。私は心細く泣き叫びましたが誰も気づきません。そのうちぐったりして私はそのまま永久の眠りにつくのです。女性の両親が心配して私を迎えに来てくれましたが、私は私の笑顔を見せてあげる事は出来ませんでした。これだけが私の後悔でしょう。

 保護されている私の兄、姉に私の誕生の話や私が亡くなる話が届き、兄、姉の心は揺れ動きます。様々な感情や思考がグルグルと彼らを襲い複雑な思いで毎日を過ごすようになります。彼らはこの感情を乗り越えて立派な大人になる運命です。」

『ほう、』

「私の過去において、、、もう数百年も昔の話ですが、この家族に酷い仕打ちをしたことがありました。その頃、私がいた村では不漁不作が続き、村全体が苦しい時代でした。あまりにも不漁不作が続き、山賊や海賊に子ども達を売り、家族を生贄に出し、乳飲み子を放置しました。

 長い年月を費やし、私は精神の成長を果たし、その時の償いの為にまた人間社会に誕生することが出来ます。それと同時に、この家族は私という存在を介して、今回の人生の役割を果たします。

 羊水の中では世界は一つで繋がっています。そこには、人間の計り知れない無限なる愛と平和があります。清閑な世界です。そして、誕生と同時にへその緒を切られてすべてが分離します。ここからが私の生きるべき道となります。人生終わる時に、またすべてが統合していくのです。この一連の流れを幾度となく繰り返し人は光となっていきます。

ここで改めて意を決します。

しっかりと数か月の命を輝かせてきます。」

『おぉ!』

~満天さんのつぶやき~

『覚悟を決めて運命というものを受け入れるだけ、

全てを受け入れるだけ、ありのままに、

ただ、それだけ。』


~ 16歳 失恋 ~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

今夜、満天さんに会いたくて会いたくて

その気持ちを打ち明けに来てくれた方は。

~ 16歳 失恋 ~

「満天さん、」

『はい』

「私は高校生!誰よりも素敵な高校生!」

『はい』

「私の彼は同級生、中学からずっと一緒だよ。高校も一緒に受験して一緒に合格!

 中2の時に告られて、ずっと付き合っているの。別れ話も何度か出たけど、その都度ちゃんと話してきた。いつも彼の浮気が原因。彼は優しいの、誰にでも。

私はそんな彼が大好き。でも、今回は違う!彼は本気みたい。」

『ふん』

「彼は、中学からテニス一途。高校に入ってからもテニス部で頑張っていた。

 昨日、一緒に下校して何だか気まずい雰囲気で。彼は部活をサボりがちだったから顧問から注意されて、帰り道、ずっと、顧問の悪口や愚痴話。そろそろ分かれ道に着いた時、いつもなら、手をつないで、引っ張り合いっこして、じゃれ合って、帰る時間を遅らせていた。

今日は違う。

「もうおしまいにしよう。付き合うの疲れた。」「どうして?」「そういうの嫌なんだ、いつも、そういうの、重いんだよ。」「、、、、」「普通の友達、その方が気が楽だろ?」「嫌」「だから、さ、重いんだよ、それが、じゃあ。」

 私は彼の背中をずっと見ていた、姿が見えなくなっても。

『ふぅ~』

「最近、彼はテニス部の女子とよく話をしていた。その女子は別の中学から来た子だった。今までの彼なら、私にどんな話をしたとか、どんな子でとかいろいろと話してくれた。  だから、浮気もすぐばれる。その度、彼を私に繋ぎとめなくちゃ!と私も頑張る。いつも最後は彼が「ごめんよ、ただの遊びさ。オレにはお前だけ、愛してるのはお前だけ」と。

 いつもなら、彼は休み時間になると、男友達とふざけたり、私に会いに教室に来てくれた。ここ数日、彼は廊下や階段の踊り場でその女子と過ごす。私が話しかけると「後でな」と、男友達とふざける時も、その女子がいる。私はその風景を遠目で見ていた。そのうちあの女子への関心も薄まると激しい胸騒ぎを抑えながらね。」

『ふん』

「私は怒りと悲しみと言いようのない不安に襲われながら、ようやく家に戻った。「ただいま」そのままベッドに倒れ寝てしまって、親から「夕飯を早く食べて」と起こされて、食卓に着いた。そして普段通りにシャワーも浴びて考えた。「明日、ちゃんと話そう。このままではいけない、いつもの事、また彼から、“ごめんよ、愛しているのはお前だけ、俺にはお前が必要なんだ”と言ってくるに違いない。

あの女子より彼への怒りが強くなった。

 彼からのライン。不安な気持ちで開けてみた。ラインには高校生時代を後悔したくない、だから一人になりたい、今はそっとしておいて、とだけあった。」

『ほう』

「一体、何、一人になりたいってどういうこと?私といると後悔するって事?悪いのはあなたじゃないの、いつも裏切り、だったら最初から付き合わなければ良かったじゃないの、告ってきたの、そっちだよ。こんなの辛いよ、重いよ、そばにいてよ、名前を呼んでよ、私はあなたの隣にしかいることが出来ないのよ、そうしたのは誰よ、あなたでしょ、私の時間を戻してよ、私の全てを返してよ、どうしてこんな残酷な事が出来るのよ、私の体は粉々に砕け散ってしまうじゃないの、私の心は海の泡となり消えてしまうじゃないの、もう私は山の霧となり隠れて見えなくなればいいのね、このまま消えてしまえばいいってことよね、あなたの中に私の温もりはもうないのね、私の影はみじんもないのね、この地球が無くなって、宇宙が失くなっても私の思いはあなたに溢れているのに、全てを返してよ、あなたなんか初めからいなかった存在にしてよ、私はこれからどうやって生きていくのよ、私に消えろというのね、それなら、私から初めからなかったことにしてやる。私が自分で終わりにするの、私の人生からあなたを消してしまう、あなたなんか!消えてなくなれ!!!」

『おぉぉ』

「涙は出てこない、怒りだけが込み上げてきた。恐ろしい考えが次から次へと浮かんだ。

 ふと、疲れて机の上の鏡に目が留まった。そこに映っていたのは私ではない。そこには巨大な蜘蛛が恐ろしい姿で映っていた。ぞっとして、後ろを振り返った。

“はっ”と我に返った、その鏡は彼がプレゼントしてくれたもの、ピンクのハートが散りばめられている、ディズニーでデートした時に買ってくれた。私が世界一、かわいい、世界一の抜群のスタイルと言ってくれた。今は、世界で一番醜い私。

 怖い、、、何かにとりつかれている、私?」

『、、、』

「とにかく蜘蛛を追い出さなくては、、、」

『うん』

「彼とあの女子を追い出さなくては!」

『ああ』

「鏡を捨てた。全て一緒に。」

『だね。』

~満天さんのつぶやき~

『失恋、悲しいね。

それでも、経験してね。

恋愛も失恋もすべて必要な経験、

素敵なレディになるための、ね」


~ダンス!ダンス!ダンス!~

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

お~や、

まんまる笑顔がやってきた。

~ ダンス!ダンス!ダンス! ~

「報告!」

『ん?』

「文化祭! 絶対、来て!」

『ん~、こっちは夜中だけどね。』

「ダメ!私が踊るのよ、めっちゃ!頑張った!センター!絶対!踊るって!

前前前世と恋!満天さん!知ってるの?」

『ふん』

「中学の時は、高校なんて考えられなかったし、いじめの不安もね。

 満天さんは、上からずっと見ていたでしょ。」

『ああ』

「小学校の時、両親は離婚し私は転校した。お友達も出来たし、先生も優しかった。

 でも、中学に入って様子は変わった。親はフルタイムで働くようになったし、一番仲良しの子は中学受験で私立合格。

 中1の2学期、忘れない、だって授業参観日だったもの。

そして、そこから始まった悲劇。

 あの日、友達と普段通りにおしゃべりして、3時限目が終わり休み時間になると、あまり話さない後ろの席の女子が「一緒にお手洗い行こうよ」と声を掛けてきて、私は普通に「いいよ」と答えた。女子トイレには、その学年で悪ぶっている女子が一人いた。いきなり私に「生意気な態度を取ってんじゃないよ」と言った。えっ!頭は真っ白、頬を殴られた。“えっ?何?” 気づいたら二人はいなかった。私は我に戻り急いで教室に戻った。

チャイムがなった。私が自分の席に着くと同時に「起立」と声が聞こえた。私は泣けてきた、「礼」の時にボロボロと涙がこぼれ落ちた。先生は私に気づいていた。でもそのまま皆が着席し授業が始まった。後ろには保護者がずらりと並んでいた。ママはいない。

 先生は何も言ってくれない。私は呆然として、授業も、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。

 私はクラスの友達が怖くなった。近くのアパートの子と一緒に行動した。その子が学校を休むと遠い道のりを一人で歩いた。

 3学期に入り、後ろの席のあの女子からまた声を掛けられて咄嗟に逃げ出し、アパートの子と一緒に帰った。帰りにその子のおばさんが経営しているおにぎり屋さんに寄った。今までに食べたこともないような、ふわふわのご飯に大きな鮭が入っているおにぎりをもらって食べた。感動しちゃって、泣いちゃった。その帰り道、“私もいじめられている。あの子、表面はいい子に見せているけど気をつけて、あの子の本性、皆、知らないんだよ、先生も親も” と教えてくれた。」

『あぁ』

「そのうち、アパートの子は学校を休みがちになった。母親が病気だからと聞いた。一緒に登下校出来ない日は心細かった。

 後ろの席の女子は頻繁に、クラスの子に上手い事言って私を呼び出す様になった。

 トイレから出られないようにされ、授業中も閉じ込められた。休憩時間になるとドアの外のストッパーを外すの。先生も私が授業をさぼっていると思っていたらしい。ホースで頭から水をかけられ、長い柄のある束子で “汚い、臭い” と言って、制服をゴシゴシこするの。怖くて抵抗できなかった。体育館の後ろは急な斜面になっていて、何度も突き倒され転がった。学校に行けなくなった。

 親にも先生にも言えない。

 毎朝、家を出て親が仕事に出かけてから家に帰る。

 2年になる時、先生からの連絡で親が初めて不登校を知った。

 3年になり、スクールカウンセラーのカウンセリングを受けることになり、最初は電話とメールのやり取りだけだったけど、皆が授業中だったら会わなくて済むからと言われて相談室に行くことになった。」

『ほう』

「1学期も後半、カウンセラーからサポート教室があることを聞き、そこに通う事になったの。そうしたらアパートの子も通っていて、また一緒に通った。

 サポート教室は不登校の生徒や経済的に苦しい子ども達の教室だった。

 教室は居心地良く、先生達は真剣に話を聞いてくれた、勉強が楽しいって初めて思ったの。

 そろそろ志望校を決めなくちゃ、皆と同じように高校見学に行った。アパートの子は成績が良くて、おにぎり屋さんのおばさんの援助もあって有名な私立高校に合格!すごいでしょ。将来は看護師さん!私はというと、あこがれのダンスで有名な私立高校は出席日数が足りず断念。サポート教室の先生が、不登校枠がある高校を調べてくれて、それが今の高校、ダンス部はある。だけど行きたかった私立高校には負ける。

高校進学やめて働こうかな、どうせ、うちは貧乏だし。

 サポート教室の先生は、たくさん悩んでいいよって、進学も就職も焦って決めなくていいよって、自分で悩んで自分で決めていいよって、言って待ってくれた。

悩んで悩んで決めた!決めた理由は、ダンス部を日本一にしようって決めたから!」

『ほっ、ほう!』

~満天さんのつぶやき~

『みんなが持っている、乗り越える力

もう、君は大丈夫

ダンスは世界でNO1




ママ、仕事にいかないで

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

おや、おや、ちびっ子が来た。

~ ママ!仕事にいかないで! ~

『おや』

「神様が願いを叶えてくれたの!」

『ほう』

「あのね、初めてのお留守番、ママはお仕事に行くから、夜は一人でお留守番。

 でもね、怖くて寂しくてたまらなくて家を飛び出しちゃったの。」

『うぬ』

 

「あの日、おばあちゃんのお家にパパが迎えに来て、ママはパパと一緒に住む事になったから、あーちゃんとお引越し!おばあちゃんのお家からお引越し!

 新しいお家で、パパとママと3人の生活。パパと会ったのはお引越しの日だけ。お引越しの日、パパはおばあちゃんに何かお話していた。おばあちゃんは泣いていて、ママの顔は真っ黒になった。

 お引越しすると、ママは直ぐにお仕事を始めたの。ママは生活のためって言うの。あーちゃんにお洋服、お靴を買って、美味しいお料理も、あーちゃんが大人になって幸せになるためにお勉強できるようにお金が必要だって。だからママは頑張って働くの、あーちゃんのために。

朝から夜まで保育園。絵本を読んで、お絵かきして、お歌もね。おもちゃもたくさん。夜になるとお部屋の中に小さなお布団をたくさん敷いてみんなで寝るの。お部屋は真っ暗になって、怖くて泣いてばかりいたけど、そのうち疲れて寝ちゃうんだ。お布団の隅をもみもみしていると、ママの胸に抱っこされているみたいで落ち着いてくるの。

 朝から夜までママはお仕事。朝のお出かけの準備時間があーちゃんとママのお話の時間、抱っこしてもらえる大事な時間なの。」

『ふう』

 

「あぁ!おばあちゃんのお家はね!レンゲやツメクサで花冠や首飾り、あーちゃんはお姫様。ぺんぺん草やカラスノエンドウ、ノゲシやたくさんの野花でお皿を飾るの。草笛の合図で、さあ、パーティー!

夏は、お野菜取りを手伝うの。近くの小川は一人で行ってはダメ、おばあちゃんと一緒!メダカやドジョウ、小さなお魚さん達と小川の中をお散歩したよ。夜になると楽しい蛍のダンス!

トンボが来る頃には、山栗拾いやアケビの実をとりに行くの。美味しい手料理、ご馳走!夜にはマツムシ、スズムシ、コオロギ達、みんなが競って演奏会!

冬になるとね、囲炉裏がとっても暖かい。あーちゃんは囲炉裏が大好き。お餅やお魚だって焼けちゃうよ!」

『ほう!』

「あぁ!新しいお家ではね、ママとお散歩たくさんしたよ。お買い物や公園も行ったよ。お仕事に行くときは駅までたくさん歩くの。ママと手をつないで、抱っこされて、ママはね、急いでいる時はあーちゃんを抱っこしてくれるの。その時は、嬉しくて、でも悲しくて寂しくて、気持ちはぐちゃぐちゃ!

 こっそり、神様にお願いするの。おばあちゃんのお家に帰れますように、ママがお家にいられますようにって。」

『あぁ!』

「あの日、夕方になって “ ママはお仕事があるけど、今日はあーちゃん、一人でお家でお留守番、誰か来てもお部屋から出たらダメだよ。寂しくないように、TVも電気もつけて、お菓子もジュースもあるからね。今日はママと一緒に行けないの。終わったらすぐに帰ってくるからね、いい子に待っていてね ”

あーちゃんは何が何だか分からず一人になった。だんだんお外は暗くなって、TVは何かやっていた、ジュースもお菓子もあった。

怖くなって寂しくて、玄関で座ってママを待っていたけど、長い時間待っていたけど、ママは帰ってこない、まだ仕事終わらないのかな、ママ、どうしたのかな、ママ!ママ!ママ!

 外に出たの、泣きながら。

 お外は真っ暗、ずっと泣いていた。」

『!』

「お巡りさんがおばあちゃんを呼んでくれたの。おばあちゃんが迎えに来てくれたよ!」

『ああ!』

「ママはね、もう働かなくていいのよ。どうしてか知ってる?

あーちゃんは知ってるよ。満天さんにだけ教えてあげる。」

『何だい?』

「ふふふ、パパと別れたから。ママはね、パパが一度もお家に帰って来なくても一人で頑張っていたの、パパのために、あーちゃんのために。でもね、もうパパのために頑張らなくていいのよ、あーちゃんのために頑張らなくてもいいの。

 お巡りさんがママに話していたの、“ これであなたは解放されましたよ。おばあちゃんと、あーちゃんと元の生活に戻れように早く手続きを済ませて下さい。何かあればすぐに警察に相談してください ”って。

 ママはあーちゃんに何度も謝っていたよ。“ごめんね、ごめんね”って。

 ママに言ってあげたの。“ あーちゃんはね、お洋服もお靴もいらないよ。美味しいごちそうはおばあちゃんの田畑に川に山にあるよ。お勉強はあーちゃん自分で頑張ること出来るもん。立派な大人になるよ、だから何もいらないよ、あーちゃんが一番欲しいのはママ! ”」

~満天さんのつぶやき~

『 いつも抱きしめてあげて

その腕に

いつも微笑んであげて

その瞳に

ぬくもりを 微笑みを

愛を伝えてあげて

あーちゃん、ママ、もう頑張らなくていいんだよ。』


夜尿症 さっちゃん

空を見上げてごらん、そこにいるのは満天さん。

さて、さて、今日の来談者は、、、

~夜尿症、さっちゃん~

「満天さん、、、」

『やぁ、さっちゃん。』

「施設の人にまた怒られちゃうよ、向こうに帰りたくない。」

『おや?』

「小っちゃい頃はね、こんなにおねしょはしなかったんだよ。でも最近はね、気をつけてるよ、寝る前にお水も飲まないよ、でもまたやっちゃった。

さっちゃんの施設ね、今は二人部屋なの。さっちゃんのように大きい子はあまりいなくて、同じ部屋のマリちゃんは年下、マリちゃんはもうおねしょなんてしないよ。今夜は、大丈夫と思っておむつはしなくて、おむつは気持ち悪い!失敗しちゃった。

高校生にもなって、おねしょはしないって施設の人は言うの。マリちゃんは、さっちゃんの事、分かってくれているけど、お布団やシーツを洗って片づけていると冬の間は寒いから、ドアの開け閉めがね、だからおむつして寝てって言うの。」

『おぉ。』

「小っちゃい頃はね、いつも失敗して、小学校になった時に、病院に行ってお薬もらって、だから大丈夫って、マリちゃんのように中学生になった時にはね、よくなったの。たまにお漏らししちゃう事もあったけど、病院の先生は大丈夫、そのうち治るよって、安心していいよって。」

『うん。』

「もうすぐ卒業。さっちゃんは大人になるんだ、働くの。だから、施設も出なくちゃいけないんだよ。グループホームって所に行くのよ。そこではね、自分の事は自分でするの。ご飯の支度やお掃除やいろいろとね、自分でやるの。そこにはお世話してくれる人もいるんだよ。今も学校がお休みの日に見学や体験に行ってるよ。

 お世話のおばさんも優しい人みたい。さっちゃんが一人で生活できるまでお世話してくれるって言ってたよ。

 今だって施設のお手伝い、たくさん出来てるけどね。小っちゃい子達の面倒もさっちゃんはよくやってる!と思うけど。お勉強も頑張ったよ。マリちゃんがお勉強みてくれるんだ。

 マリちゃんもさっちゃんも、とってもいい子なの、施設の人は分かってくれてるのかな、、、

 マリちゃんはすっごくお勉強ができるんだ、さっちゃんにも分かるようにお勉強教えてくれたよ。将来は先生になるんだよ。そしてね、いい子ども達をたくさん育てて、優しい親にするんだって、子どもを傷つけたり、捨てない親にするって言ってるよ。

 そしたらね、さっちゃんはもう捨てられないって言ってくれたよ。

 マリちゃんは年下だけど、お姉さんみたいなの。マリちゃんと離れるの、寂しいな、、、

さっちゃんね、パパもママもいないんだ、小っちゃい時はパパがいたけど、パパは男の人だからさっちゃんを育てられないんだって。パパはね、さっちゃんが大きくなったら一緒に住めるよって、はぁ~~

 さっちゃんみたいに、ずっと親と会えない子もいるって施設の人が話してくれた。でも、さっちゃんは、みんなより幸せな事もあるんだって、親がいてもマリちゃんのように辛い思いをする子がいるんだって、だから、だから、だから、、、

 でも、さっちゃんね、いつか会えると思っているよ。さっちゃんがいい子にしてるとね。小っちゃい時、施設の先生はパパが来てくれると“さっちゃん、いい子でした。”って、いつもパパに言ってくれたの、“パパはさっちゃんがいい子でいたら、また会いに来るよ”って言ってくれた、、、

 さっちゃんは、ここを卒業したら、どうなるかな。施設を出たらどうなるかな。」

『卒業!』

「そうだ!卒業!全部卒業する!

 さっちゃん、大人になるよ。

 満天さん、実はね、さっちゃんね、本当の事、、、知ってるんだ。」

『本当の事?』

「パパとママは、違う人と結婚して、子どもがいて、新しい家族と暮らしているの。さっちゃんには弟も妹もいるんだよ、パパにもママにもその子達にも、会うことはないけどね。

パパとママは一生、さっちゃんの事を忘れられないんだよ。この先、ずうっとね、さっちゃんにした事、さっちゃんを産んだ事や置き去りにした事を忘れたくても忘れられないんだ。おじいちゃんやおばあちゃんになればなるほどさっちゃんの事が心から離れられなくなるんだよ。だから、さっちゃんは、パパとママの心の中にずっといる事が出来るの。パパとママは、さっちゃんの事、忘れられないの。さっちゃんがママのおなかに入った日の事、産まれた日の事!

 パパとママのその気持ちはね、弟や妹も邪魔できない!さっちゃんだけに向けられる!特別なもの!」

『そう。』

「さっちゃんだけに向けられるパパとママの思い!さっちゃんだけのもの!」

『そう。』

「満天さん、私は大人、今から大人に生まれ変わるの!今日は満天さんに会えて、充分にお話し出来て、嬉しかった。さようなら、満天さん。」

~満天さんのつぶやき~

『さっちゃん、君の誕生が、君の存在そのものが、祝福されているんだよ。

 それを知るすべが、これからの人生に溢れているんだよ。